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透析クルーズ体験記【第2回】
透析の実際

2017.3.13

文:萩元幹生

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前回は「透析クルーズ体験記〜ツアーと透析の概要」をご紹介しました。
今回は実際に透析がどのように行われたのかお話ししたいと思います。

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乗船、そして透析クルーズ体験

乗船初日の夕方は船内の一室でオリエンテーションがありました。スタッフの紹介や必要最小限の説明だけで患者の自己紹介は求められませんでした。
この乗船初日は透析治療がないのですが、その主たる理由は透析用水の浄化に時間がかかるからということでした。
乗船初日(今回の場合月曜日)に透析ができないということは、月曜日に透析を予定している患者は、乗船前に乗船翌日(火曜日)に透析をするスケジュールに変更しておかなければならないということになります。

乗船翌日、旅行前に取り決めた時間に治療室に出頭(笑)しました。
服装は更衣設備がないこともあり平服なのですが、船室の室温が白人に適した21〜23度と低めに設定されているので薄着はお勧めできません。
私はトレーナーの上下を着用していたのですが、それでも毛布が必要でした。

医師による最初の問診は、アメリカの医療施設らしく時間をかけて非常に詳細に亘りました。特に過去の病歴と現在の常用薬の処方の背景や事情がポイントです。
透析患者に対する投薬の処方について、日米間でかなり考え方に違いがあることは、医師の表情から明白に読み取れました。この医師は漢方薬について全く無知で、こむら返り対策に持参した「芍薬甘草湯」に強い抵抗を示しましたが、この薬以上に効果のある対処法を医師が約束してくれれば服用をやめると申し出たところ、黙認するということになりました。ちなみに、看護師2名はこの薬を知っているだけでなく、普段勤務している医療機関で処方しているケースがあるとのことでした。

一方、透析時間や血液の流量などの透析治療のキーファクターについては、患者が本国で行っているやり方を尊重するという約束なのでその通りにやってくれましたが、アメリカ式の大流量・短時間の方が万事タイム・イズ・マネーの時代にマッチしているとの信仰が垣間見えました。

初回の穿刺は穿刺上手な技士のDonnaだったのですが、針のゲージが連絡の手違いでひとまわり大きい16Gだったため痛みもあり、その上穿刺場所の間違いもあり散々でした。
アメリカでは穿刺痛を軽減するための「麻酔テープ」は使用せず、「麻酔入りのクリーム」を患者が塗布、ラップを巻いて来院をするとのことです。

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東京からロンドンへの移動は、ロンドン到着時間と乗船時間の関係で乗り継ぎ便を利用しました。透析間隔の拡大を回避するための選択ですが、それでも時差で1日が32時間になり、その上航空機の乗り継ぎで飲食量(=体重)がどうしても多くなってしまいます。そのため通り一遍の設定にすると除水量が過大になる傾向があり、この日は透析の終わり頃に強烈なこむら返りに襲われてしまいました。

医師の問診(主として当日の体調)と聴診器による心音・呼吸音のチェック、腹部の触診、下肢のむくみチェックは毎回行われました。
看護師もシャント音のチェックだけでなく、心肺についても医師とダブルチェックを行っています。
日本では主にシャントと呼ばれますが、スタッフの間ではこの言葉は全く使われず、代わりにフィスチュラ(fistula)が使われていました。

ドライウェイト管理の柱である体重計は精度が「?」で、3回計測して同じ数値が出たらそれを採用、3回とも違っていたらその平均値を使うという大雑把さです。

止血の処置は、ガーゼの上から回路固定用の半透明のテープを4重5重に圧着するのが主流で、絆創膏はバンドエイドの転用。治療後は半袖では無様で歩けない状態です。
止血の際に何らかの事情で患者が手伝う場合は、患者の手にも医療用の手袋を装着するという衛生面でデリケートなところがあるかと思えば、患者の殆どが土足でベッドに横たわっているという極端なアンバランスも見て取れます。

体温計は脇下で計測する我々が使用しているようなものは全く無く、紙にプラスチックをコーティングしたようなスティックを舌下に入れるか、金属の電極を口の中に入れるかです。後者は使用の都度消毒液をくぐらせていますが、心理的に抵抗感があります。
度量衡のメートル化の遅れている米国では、体重だけはkg表示ですが、温度表示は相変わらず華氏(F°)で困惑しました。

彼等のやり方で患者の観点で良いなと思ったのは、透析終了後に血圧計の圧着部分に軽くマッサージを施してくれることと、患者がベッドから起立する時に姿勢を支え、必ず血圧測定をしていたことです。

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穿刺担当のDonnaはプライドが高く、1回目の失敗で私の血管の状況が良く判ったので「次回以降は失敗しない」と宣言し、あと1回マイナーなミスがあったことを除くと、有言実行の結果となりました。
Donnaはこれまで何人かの日本人の治療にあたった経験があるようで、その彼女の日本観は、シャント手術をする医師に自己流が多いためかAとVの相対位置関係がてんでばらばらで穿刺がやりにくいとのことでした。
アメリカではAとVが術者の片手の指で無理なく届く距離にあるようにシャントを作るそうです。


透析中に不整脈発生!

5回目の透析中に不整脈が発生しました。 透析医は高カリウム血症が原因と狙いを付け、血液検査キットでチェックしましたがカリウム値は正常でした。あとは心電図が頼りと、船の医務室(医師2名、看護師4名、いずれも南アフリカ国籍)とコンタクトを取り、船の内科医(女医)の診察を受ける羽目になってしまいました。
彼女の診断は、心房に第一度のブロックがあることと心臓発作へのつながりやすさを示す数値が若干高いので、病室で横になり心電図などの計器をつけて数時間経過を観察したいとのことでした。
これに従ったところ、程なく正常に復帰したので「退院」とあいなりましたが、その費用は$629(およそ75,000円:当時の相場)でした。

帰国後直ちに専門医の診察を受けるように命じられていたのでその通りにしたら、日本の医師の見立てでは、そんなに大騒ぎをするような代物ではなく、患者が高齢の旅行者だったのでより慎重に構えたのだろうとのことでした。
船医から診断書をもらって気がついたことですが、ここでは治療の開始前に有資格看護師がトリアージを行っています。私の優先順位は3でした。 乗客最大4,905人、乗組員1,500人、計6,405人が乗っている船に医師が僅か2名であることを考えると、有事の際(船で一番考えられるのは食中毒)にはこのトリアージが現実味を帯びてくると感じました。

triage:戦争や大災害時、患者の数が多く医療従事者の数が限られている際に、生存者の最大化を期するために患者の症状の重篤度に従って治療の優先順位を決めること


透析クルーズの安心感

今回米国式透析療法を垣間見る機会を得たわけですが、一口で言うと、ハード面は日本の勝ち、ソフト面ではアメリカの勝ちという評価です。 入念な問診、治療終了時に血圧計の圧着部位へのマッサージがあることや、血圧変動が起きやすいベッドからの起立時のアシストなどは、患者に大変優しい対応だと感じ入りました。

いくつかの旅行会社が透析患者のための海外旅行ツアーを用意しています。添乗員が旅先の透析施設に連れて行ってくれるのですが、いくつかの場所を歴訪するタイプが通例のようです。 一方、海外に短期滞在を希望する人には現地の透析施設を紹介してくれる業者もあるようです。 前者の歴訪型だと透析施設(スタッフ)が都度変わるという不安があるに対し、後者にはそれがないものの、紹介できる地域が台湾、シンガポールなど東南アジアの一部に限られているという問題があります。 今回のような透析クルーズは、船上で透析を受けて、いろいろな所に移動しつつも旅行中は終始同一のスタッフのケアを受けられるという安心感が得られて、両者のいいとこ取りになっているのではないかという感想を持ちました。

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萩元幹生

萩元幹生
昭和一桁の最終年、東京都に出生。
若い頃に発症した痛風との長い闘いで腎機能不全に陥る。
透析歴は2年8カ月。
現役時代に国際関係業務に従事したこともあり、海外旅行経験は豊富。
クルーズは今回を含め13回経験しており、主要な海域は概ねカバー。

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