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【第2話】私が穿刺していました

2014.11.10

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血液透析を受ける患者さんにとって「バスキュラーアクセス」と呼ばれる血液を出し入れする方法は、治療を受けるための大切な命綱です。とくに腕の中に隠れている動脈と表面の静脈を手術で繋ぎ合わせた、内(ない)シャントが一般的です。他にも、肘より上の動脈を皮膚の真下まで引っ張り上げる動脈表在化、専用の人工血管を埋め込んで動脈と静脈を繋ぐグラフトシャントがあります。心臓近くの中心静脈にまで特殊なカテーテルを植え込んで固定する方法も増えているようです。

内シャントを使用している血液患者さんは透析治療のたびに、2本の針で穿刺を受ける必要があります。1本は血液を取り出す側で、もう1本は透析回路で浄化された血液を身体へ戻すために使われます。先が尖っていない針で行うボタンホール式穿刺があまり普及していないこともあって、針を刺されるときは痛みと不安がつきものです。じっとその様子を観察しているのも難しく、黙って我慢している患者さんが多いのだと思います。事前に貼り付ける麻酔テープを使えばズキンとする針の痛みを軽くすることができますが、かぶれてしまって使いにくい患者さんもいます。

透析前の穿刺は透析室スタッフにとっても毎回緊張する場面です。知識や経験が豊富であっても、同じ患者さんの内シャントであっても、スムーズに穿刺が成功するとは限りません。できるだけ痛みが少なく、透析中には調子よく血液が出し入れできる場所を狙って針を狙い入れることになります。私も多くの患者さんの穿刺を担当してきました。

あるとき左腕の裏側に珍しい手術痕を持つ透析患者さんがいらっしゃいました。快活な雰囲気の女性で、別の科で治療を受けるために入院されていたのです。
透析室で患者さんの両腕を観察させていただくと、あちこちに内シャントを作成した手術痕が残っていました。現在のように経皮経管的血管形成術(PTA)がまだ多くなかった時代、内シャントが閉塞するたびに違う場所で手術していたのです。

その中に左手首の近く、腕の裏側に見慣れない短い直線の手術痕を見つけました。横に並んでいる2つの手術痕。現在は滅多に使用されていない、外(がい)シャントを留置していた痕でした。ベテランの透析患者さんには内シャント以前に広く普及していた外シャントの経験を持つ方がいらっしゃいます。けれども若手医師は教科書の写真でしか見たことがないわけで当時の私もその一人でした。

不思議に思って質問すると、かつての外シャントについて患者さんが簡潔に説明してくれました。当時は透析回路に接続するバスキュラーアクセスとして、皆が外シャントを使用しており特殊な透明チューブを動脈と静脈にそれぞれ挿入し、U字型のチューブが手首近くでむき出しになっていたそうです。いつも血液が激しく流れている様子がくっきりと見えるわけで、身体の中に隠れている内シャントとはだいぶ雰囲気が異なります。

万が一破けてしまえば大出血を起こし、血栓で詰まってしまえばすぐに使えなくなってしまう外シャント。体外に出てしまっている部位は皮膚からの細菌感染にも弱いはずです。まだ内シャントが普及していない時代はバスキュラーアクセスを安全に保つことすら今よりも難しかったのでしょう。外シャントを持って生活することは本当に勇気のいることだろうと、医師としても率直に驚きました。 患者さんがそのとき使用していた内シャントは、長く使用してきたらしく、瘤のように太く拡張していました。太い血管は穿刺の成功確率が高くなります。とはいえ初対面で穿刺することになった私は少し緊張しました。
すると私の心の変化を感じ取ったのか、患者さんが「アメリカでは自分で穿刺していたんですよ」と優しく話しかけてきてくれたのです。「自分でやっているときはこの場所が狭くなっているから、こちらを使って」というふうに内シャントについて丁寧に解説してくれる患者さん。 バスキュラーアクセスの自己穿刺については知識が少なく、とても驚いた私でしたが、文献や学会報告などで諸外国には自己穿刺が多数を占める国があると知っていました。

その患者さんは海外駐在の経験がありアメリカで生活していた頃は内シャントの穿刺も患者さんが自ら行うので、日本とはかなり異なる治療経験をしたそうです。シャント内部の癖についても自ら分かっているので自己穿刺は上手にできたとのことでした。

患者さんが先当たりしやすい部位を事前に説明してくれたので、幸いなことに問題なく初回の穿刺が成功したのを覚えています。患者さんが主体的にバスキュラーアクセスを使いこなしているのだと、非常に強い感銘を受けた瞬間でした。

この患者さんとの出会いは、外シャントという手法が本当に存在したこと、内シャントは自己穿刺もできるという、2つの大きな知識を私に授けてくれたのです。患者さんにはどちらも忍耐力も求められる要素です。

自分で穿刺しても内シャントに痛みは毎回発生するでしょう。透析そのものだって苦労するのだから、患者さんは穿刺のことなど考えたくないことかもしれません。

けれども、
(1)患者さんが自分の肉体を知ることの重要性
(2)透析に関わるスタッフは、患者さんの経験を尊重すべき
という考え方を、私が抱くきっかけとなりました。

日本では、専門知識を持つ透析室のスタッフに、何かとおまかせとなってしまうことが多い血液透析。ご高齢の患者さんも増えて身体的な苦労も増える中で、透析の開始くらいはおまかせしたい、とお考えになる患者さんが多いことでしょう。とはいえ、患者さんの主体的な参加を医師は少しおろそかにしてきたのかもしれません。
内シャントへの自己穿刺は止血操作を含めて、透析の“離陸と着陸”に該当します。自己穿刺は良い透析を行うために主体的に担う自己責任でもあるのです。正しいバスキュラーアクセスの知識を身につけ、さらにはそれを乗りこなすための静かな努力。在宅透析の場合では実施できていても施設透析では後回しになりがちなのが日本の実情です。
血液透析という根気のいる治療を受ける中でも、患者さんが自立できることを示す素晴らしさや意義。その後に透析専門医となった現在でも、深く考えさせていただいた患者さんとの貴重なエピソードでした。

次回は、「血液透析から腹膜透析に」
(一時的に、腹膜透析へ変更を実現した患者さんのお話)です。

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宮本 研

宮本 研

医師15年目になりました。民間病院の透析医と製薬・ヘルスケア関連のコンサルタントを兼務しています。病院で白衣を着ているときも、講演中にスーツを着ているときも、色々な気持ちや出来事と向き合っています。
大学医局に所属する腎臓&透析専門医ですが、学術研究よりはもっぱら医療現場での実践に励む日々です。