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【第6話】3つめの腎臓

2015.7.21

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多くの皆さんは、お腹の背中側(後腹膜腔)に1対の腎臓を持っています。こぶし大でそらまめ形をしていて左右に1個ずつ、合計2個の腎臓がまるで1セットのように同時に機能します。腎臓が2つあると言われても外からしっかりと触ることはできない中心側におさまっていて普段はその存在を自覚できません。音も立てず、ごく静かに腎臓たちは活動中なのです。

生まれつき片側の腎臓が小さかったり、おへその真下で左右が繋がっている場合もありますが(馬蹄腎)、日常生活に困る場合は少ないもの。大人になってから超音波検査で発見されて、特別な形の腎臓を持っているとはじめて知る人もいるのです。他の人と腎臓の形が少し違っても、顕微鏡レベルの基本的な構造は共通なので大きな心配はいりません。

そして中には3つめの腎臓を持っている方々もいらっしゃいます。これは、腎臓移植で他人から腎臓を1つ、体内にいただいた場合です。病気で調子を崩した腎臓たちを残したまま移植手術を行うのが普通ですから、腎臓の合計が3つになるのです。


私は腎臓内科医として3つめの腎臓を持っている患者さんにお会いしてきました。胎児期から一緒に人生を過ごしてきた2つの腎臓が調子を崩したことで新たな腎臓が1つ、体外から加わるという現代医療の進歩には驚くばかりです。

最初に腎臓移植を目撃したのは、若手医師として麻酔科研修を受けているときでした。大きな病院でクリーンルームという特別な手術室が用意されており、隣り合った部屋を用いてお父さんからお子さんへの生体腎移植が行われていたのです。

そのお子さんは慢性腎炎のために腎臓の働きがかなり弱まっていたそうです。子どもの成長期には腎臓も身体に合わせて大きくなるべきで、恒常性(常に一定の状態を保とうとする性質)に関わるバランスが保てなければ生きていくために透析療法が欠かせません。ちょうどお子さんの身体が大人の腎臓を1つを受け入れることができるようになったので、親子間での腎臓移植を実施したのです。当時は免疫抑制剤が大きく進歩したころで、手術中も手術後も成功率がかなり高いとのことでした。

お父さんから腎臓が1つ取り出され、お子さんに手順通り移植されていく様子を眺めながら、3つめの腎臓がどのように未来を支えていくのかを考えました。成人の大きな腎臓が子どもへと移動する模式図を思い描きながら、この治療法を必要としている小児が少なくないことに複雑な思いを抱きました。


あるときは外来にやってきた青年から「移植後の腎臓について調べてほしい」という要望を受けました。英語で書かれた紹介状を持っており、初診の当番医だった私は急いで文面に目を走らせました。なるほど、某国で腎臓移植を受けたので、日本への帰国時は定期的に腎臓機能を調べて欲しいという主治医からの依頼文が書かれていました。青年が語る経緯は驚きに満ちたものでした。

もともと学校検診で尿検査の異常(おそらく蛋白尿の陽性)を指摘されていたけれども、とくに自覚症状もなかったので病院に通っていなかった。けれども高校生の頃に病院を受診すると腎臓の働きを示す数字(血清クレアチニン)が高くなっていると言われた。IgA腎症という慢性腎炎であると診断されたが、完全に治すことはできないそうなので注意しながら海外留学に出かけることにした。

外国で暮らしはじめてからも生活に支障はなかったが、数年してから体調が悪化して疲れやすくなった。病院を受診するとすでに腎臓が相当に悪く、透析か移植治療を受けるしかないと言われた。すっかり困り果てながらも通院していたが、あるとき急に病院から連絡があって入院するように言われた。どうやら腎臓移植の提供者が現れたらしい。ドナーの事情はよく分からないけれども手術は成功し、結果的に腎臓を1つもらえたので身体の具合は劇的に良くなった。
「先生、これですよ」と青年がお腹を見せると、おへその横に手術の跡が残り、その内側が少しだけ丸く膨らんでいる。やせ形の体型なので、そこに3つめの腎臓がいることはすぐに分かりました。外国で移植するときも日本でも、血管と尿管の縫合を容易にするために3つめの腎臓はお腹の下側に植えるのです。

「これが彼の人生を支えている新しい腎臓か」と触診をしながら、やはり驚きました。医師として科学的根拠を理解していても他人の臓器が共存している現実には不思議な気持ちになるのです。それも留学先の国で見ず知らずの外国人からいただいた腎臓です。

「ときどき、腎生検をするんです。あれは苦手ですよ」とも話してくれました。通常の腎臓を顕微鏡検査で調べる場合は、うつぶせの状態で腰付近を部分麻酔して特殊な針を用いて腎臓の外側を細く採取します。青年の場合は移植後の腎臓が拒絶反応を起こしていないか、3つめの腎臓を定期的に針生検しているとのことでした。新しく腎臓をもらったら全てが完了とはいかない現実も含めて色々と考えさせられる経験となりました。


日本で行われる腎臓移植は大部分が親族間での生体腎移植です。どなたかの腎臓を1つ提供していただき、3つめの腎臓を持っている患者さんがいらっしゃる。手術の技術でも拒絶反応の抑制でも我が国は優れた治療成績を誇っているのですが、新たに透析が始まる患者さんの数にくらべて移植を受ける患者さんの数はとても少ないのが現実です。

差し上げて腎臓が1つになったご家族の健康に対する懸念も長年示されており、再生医療の進歩によって劇的に解決することが求められています。

「先生、クレアチニンが1になったんだよ。おしっこも出過ぎるくらいで」夫婦間で生体腎移植を行った中年の患者さんは、透析生活からの卒業について満面の笑みで語ってくれました。透析中には見たことがないほど快心の笑顔でした。色々な苦労を抱えながら患者さんたちが闘病していく中で透析医療が関わる人間模様と、それがもたらすさまざまな側面を医師として日々実感しています。

腎臓病を早期に発見し、よからぬ進行を予防してできれば完全に治す。現代医療に求められている高い目標を達成するために、医師だけでなく多くの関係者が努力を重ねています。劇的な進歩がこれからもあることでしょう。

3つめの腎臓がいつかは自分の細胞から再生した腎臓となり、最新治療の恩恵を心から感謝できる日が来ることを願っています。もちろん腎臓病を短期間で治すことも必要です。正しい医学情報を掲載するじんラボの情報がたくさん普及することも。

次回は「腎臓病の白熱教室」
(大学病院で開催していた患者さん向けセミナーのお話)です

※腎臓移植について詳しく知りたい方は、「腎臓移植の基礎知識」をご覧ください。

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宮本 研

宮本 研

医師15年目になりました。民間病院の透析医と製薬・ヘルスケア関連のコンサルタントを兼務しています。病院で白衣を着ているときも、講演中にスーツを着ているときも、色々な気持ちや出来事と向き合っています。
大学医局に所属する腎臓&透析専門医ですが、学術研究よりはもっぱら医療現場での実践に励む日々です。