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透析から移植へ 〜戦いは終わらない〜

【第9話】腎臓移植に向かって ~ドナーについて~

2022.1.11

文:OZMA(オズマ)

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ドナーとしての心得

レシピエント(臓器提供を受ける側)の経験しかない私にドナー(臓器の提供者)としての心得を述べることはできないが、移植前に妻とドナー に関する考えを議論したので、そのことについて話してみようと思う。

コロナ禍で、妻は新型コロナウイルスのワクチン接種会場に薬剤師として手伝いに行っていた。そこでいろいろなスタッフにこう聞かれるらしい。「何故ドナーになったのですか?」「血液型が適合したのですね?」「腎臓が一個で体調は何も変わらないのですか?」と。

妻は以前から、ドナーには抵抗はなかったと言っていた。北海道大学前の薬局を経営していたため、腎臓移植や肝臓移植、骨髄移植を受けた患者さんを100名以上見ていた。そのため受け入れやすかったのかも知れないが、それだけではないと思っている。

妻はよく「日本は奉仕の精神がなさすぎる」「寄付をする社会ではない」と口にしている。金額的には微々たるものだが、妻は1型糖尿病治療薬の開発や、針を使わないインスリン投与方法の開発などに寄付をしている。このような奉仕の精神がもともと根底にあるのだろう。また「腎臓は2つあるのだから、1つならあげても良いと考えていた」とも言っている。

腎臓移植が決まった時、妻の実家に話をしに行った。
妻の両親は「夫婦で決めたことだから何も言わない」「二人が良いと思うならそうすれば良い」と言ってくれた。私としては体に手術痕が残る点など心苦しい思いもあったが、背中を押された気分だった。

ドナー経験者に話を聞くと、ドナーになる理由は実にさまざまである。
透析になると食事療法が大変だから、私の腎臓で役に立つならぜひ提供したい、子どもが小さいのでこれからも仕事を頑張ってもらわなければならないから ― など。
一方で、私と彼は別人格なので絶対にあげない、双子の姉妹や兄弟ならあげるけど旦那には絶対あげない、などという意見もあった。
その人や家庭ごとにいろいろな考え方がある。これが正解というものは無いのだろう。


腎臓移植のスタートラインに立つまで

ドナーになっても、入院や手術代はレシピエントの健康保険を使う。もちろん移植手術にあたり入院するのだが、生命保険の入院給付金などは対象外だ。何故ならドナーは腎臓が一つになっても健康に支障をきたす可能性が低いという大前提に基づいているからである。
しかし新しく生命保険に加入したり、住宅ローンを組んだりするときには注意が必要だ。告知項目に「3年以内に手術をしたことがありますか」など手術の有無を問われる場合がある。保険会社によって多少違うようだが確認を取っておく必要がある。

術後の経過についてはこの連載の次回以降に詳しく話すが、妻の移植後の体調はeGFRは60mL/min/1.73m2、クレアチニン値は0.90mg/dLくらいで落ち着いている。移植4年目で、残した腎臓は頑張って機能を回復させ腎臓提供前の75%くらいまでは戻っていると言われている。日常の生活には全く問題はない。

献腎移植がなかなか進まない現在、生体腎移植は腎臓病患者にとって貴重な治療法のひとつである。腎臓提供には賛成だが、ドナーは十分に考えて臓器提供をすべきだと思う。提供後には後悔しても時間は巻き戻せないのだから。

このように、移植手術まではいろいろなハードルを越えていかなければならない。自分の検査やドナーのことなど、一人では解決できないものもある。
移植コーディネーターの「あくまでも予定ですから」は十分に理解できる。直前で延期になる方々も実際にはいると聞く。すべてを順調にクリアしていって初めて、腎臓移植のスタートラインに立てるのである。

※【第7話】腎臓移植に向かって ~移植前の検査や心構え①~参照

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OZMA(オズマ)

OZMA(オズマ)
1961年2月生まれ。
59歳。埼玉県所沢市出身、札幌市在住。
糖尿病性腎症で54歳に透析導入。2年2ヵ月後、妻から腎臓移植。
仕事は、外資系製薬会社に13年勤務、営業、管理薬剤師、開発、広報などを経て1998年より薬剤師として勤務。2001年に独立して薬局経営。現在、新しい薬局の開設準備中。

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