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透析から移植へ 〜戦いは終わらない〜

【第3話】薬剤師の観点から見た透析の検査値、薬、チーム医療

2021.1.18

文:OZMA(オズマ)

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今回は薬剤師の観点から、診断の昔と今、薬剤師と同じく医療チームの一員である管理栄養士の使命、透析患者に欠かせない薬や検査値についてお話ししようと思う。


医者の診断の拠り所

循環器の医者いわく、「血圧は病院で測るより、自宅の記録をもらった方が診療の役に立つんだよね」「でも病院で測らないと、『あの医者は何もしてくれない』と言われても嫌だからさ」「だから僕は外来で測っているよ」。
消化器の医者いわく、「最近の若い医者は触診をしないね」「検査値ばかりに頼って、それじゃ診断技術は上がらないのに」。

皆さんは最近、外来で血圧を測られたことがあるだろうか。
私は自宅で家庭用血圧測定器を使って測り、病院では自分で測った結果を見せながら診察を受ける。
触診に関しては、はるか昔の子供のころで、風邪をひくと近くの開業医へ行き、背中を打診され、お腹は手で押されて診察された。「痛い」と言うと「ここが痛かったら大変な病気だよ」と老齢の医者。次はここを押されても痛いとは言わないようにしよう、と思ったのを思い出す。

昔の医者は、手でお腹を触り痛い部位や張り具合や硬さ、背中を打診して音などから、病気を予測して診断、治療していた。病気の見立て(診断)は経験なくしては行えなかったのである。今は心電図、エコー、CT、MRIなど医療機器の発展で、体内のデータを入手した上での診断が可能になっている。血液検査ではいろいろな疾患をスクリーニングし、確定診断の指標になる検査もあるのだ。


コーヒー牛乳をめぐる管理栄養士とのバトル

病院の正面玄関を入って透析室に向かう途中、廊下の左側にその「部屋」はある。今日は前回の血液検査結果が出るため、「また来るかな?」と部屋を眺めながら透析に向かった。
穿刺も順調に終わりベッドで推理小説を読んでいた。突然「バタバタバタ」と足音がする。「来たな」、「部屋」から来た管理栄養士に違いない。いつも手にしているのは推理小説ではなく食品分類表だ。学生のころから使い込んでるらしい。

「今日はリンが少し高くなっていますよ」
「最近の食事の内容を教えてもらえますか?」
と矢継ぎ早に質問が来る。私は「予想通り」と、用意した回答をスラスラと答える。

「コーヒー牛乳を飲んでいるのですね。それはやめられませんか?」と管理栄養士。
「水分を極力控えているし、昼ごはんを食べるときに飲むコーヒー牛乳だけが楽しみなんだよ」と私。
管理栄養士は自分の仕事を忠実に履行しているのは百も承知である。しかしこちらにも言い分はある。

私が小学生だったころはまだ戦後20年。給食はパンばかりで、牛乳は栄養を摂る目的で必ず飲まされた。給食は嫌いだったが、時々牛乳に“謎の粉”を入れて作るコーヒー牛乳は大好きだった。のちに謎の粉の名は「ミルメーク」だと知る。甘いコーヒー牛乳を大好きになったきっかけはミルメークであり、給食嫌いの私を救ってくれたあの味が忘れられなくてコーヒー牛乳を飲むのである。

毎日の食事には気を使っていた。コンビニやスーパーで買うときは成分表とにらめっこ。時々そんな人を見かけると、同じ境遇なのかなぁと思ったりした。

私の通っていた病院は透析中に食事の提供があり、いつも何が出てくるか楽しみにしていた。その上、完全に成分計算されていて安心だ。 だが、病院から提供される食事は一週間21食のうちわずか3食。血液を良い状態を保つにはそれ以外の食事が大切なので、管理栄養士とのバトルが起こる。毎日コーヒー牛乳を飲むと血液検査に反映されて、悪行が暴かれるのである。


管理栄養士の使命

牛乳やコーヒー牛乳は、血液検査結果にどう反映されるのだろうか。
コーヒー牛乳のような乳製品を摂ると、血中にリンという物質が増加する。適切に摂れれば良いのだが、これが難しい。結果、管理栄養士が飛んできて食材中にどれだけリンが入っているかを熱弁するのである。本当は薬学部に行きたかったと言っていたが、良く勉強している。

リンは様々なものに含まれる。肉や魚、卵、乳製品、豆類などたんぱく質の多い食品に含まれるほか、ハムやベーコン、練り物、インスタント麺などの加工食品にも入っている。これだけ見ると、食べるものが無くなってしまうと思うがそうでもない。自由には食べられないかもしれないが、食べることはできる。 あるコンビニのCMで、サンドウィッチに低リンのハムを使っているというのを見た。日本のコンビニも頑張っている。

腎臓病・透析患者は、リンが高くなると何故ダメなのか。理由はさまざまあるが、その一つとして骨への影響が挙げられる。血液中のリンとカルシウムのバランスをとるため、体は血中のリンが多くなると骨からカルシウムを供出してカルシウム量を増やそうとする。まさに身を削って体の均衡を保とうとしているのだ。
その結果、骨粗しょう症を招くほか、二次性副甲状腺機能亢進症による骨痛、骨折、関節痛なども引き起こす恐れがある。このように、腎不全に伴う骨障害を腎性骨症と言う。それを防ぐために、リンを排出しづらい透析患者のリンのコントロールは非常に重要なのだ。だから管理栄養士は目の色を変えて病室にやってくるのである。


「ピー」「トル」、「キック」「リン」???
ネーミングの妙「リン吸着剤」

透析導入時のリンの値は正常だったが、1年経った2016年10月ごろリンの値は7.0mg/dLまで上がった。そこで薬の登場である。ピートルチュアブル錠を処方され、1か月で4.7mg/dLまで下がった。薬の効果は絶大であった。

リン吸着剤には面白い名前のものがある。ここでは服用したことのある「ピートル」と「キックリン」についてお話ししたい。

リンは元素記号で「P」、カタカナ表記にすると「ピー」である。「ピートル」とはリンを取るというネーミングである。検査データを見て、本当にリンが「取られた」んだと実感した。
(ただ、ピートルチュアブル錠は苦手だ。粘土質のチョコレート色物質が土のようで苦痛を感じ、薬を変更する羽目になった。せっかくコントロールできていたにも関わらず、だ。薬剤師としては恥ずかしい限りである。)

また「キックリン」は、キッリンてリンをやっつけるというネーミングだ。発売当初のパッケージには、ジンベイザメがリンのサッカーボールをキックしていた。
製薬会社はふざけているわけではない。名前は重要なファクターなのだ。

リンやカリウムなどの微量元素の均衡のコントロールは腎臓が担っている。透析が必要になると24時間連続で均衡を保つことが困難になる。そこで薬の力を借りたり、食事からの摂取を制限したりするのだ。


管理栄養士も薬剤師も、全知識を使って患者さんの透析生活を守っているのである。管理栄養士は食事の摂り方を指導し、薬剤師は違う剤型を提案したりする。前回も述べたが、チーム医療に携わるのは管理栄養士、薬剤師冥利に尽きるのではないだろうか。

次回は、いよいよ「腎臓移植に向かって」と題し、ドナー・レシピエントの検査や心構え、さらにスクリーニングでの新たな病気の発見などについてお話しします。

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OZMA(オズマ)

OZMA(オズマ)
1961年2月生まれ。
59歳。埼玉県所沢市出身、札幌市在住。
糖尿病性腎症で54歳に透析導入。2年2ヵ月後、妻から腎臓移植。
仕事は、外資系製薬会社に13年勤務、営業、管理薬剤師、開発、広報などを経て1998年より薬剤師として勤務。2001年に独立して薬局経営。現在、新しい薬局の開設準備中。

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