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夫婦間生体腎移植 〜繋がる想い〜

【第2話】結婚・妻の想い、そして決断

2015.8.31

文:横山真三

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専属看護師の登場

透析導入となりその生活にも慣れてきた頃に、透析室へ新たな看護師が3名配属されてきました。幸いにも私のシャントはよく発達しており、刺しやすいシャントとして看護師さんに人気( ? )で、新人さんが来るたびに穿刺の練習に協力させてもらっていました。普通の患者は新人さんの穿刺を嫌がるみたいですが、私は「新人さんが育ってくれないと困るのは患者」との思いがあり、たまの失敗には目をつぶろうと思っていましたが、実際に失敗された記憶はありません。というわけで、当然のようにこの3名の新人さんもよく穿刺にやってきました。

その後3名の新人さんも透析室に馴染み、先輩看護師さんの指導から離れてからも、1人だけやけに穿刺に来る看護師さんがいました。それが今の妻であり、私を20年の透析から離脱させてくれた人であります。


まさかの結婚へ

透析患者の私が看護師の彼女とお付き合いを始める時、やはりかなり悩みました。彼女は全く問題無いと言ってくれましたが、私の立場からすると簡単に考えることはできません。何より彼女のご両親の思いを考えると申し訳ないような気持ちにもなりました。

お付き合いを始めた当初から、私は患者である私を少しでも理解してもらうためにできるだけ彼女のご家族に会うようにしました。しかしそれも全て取り越し苦労というやつで、彼女のご家族には常によくしてもらい本当にありがたかったです。

月日が経ち私たちも「結婚」の二文字を意識するようになり、お互いの家族にもそんな空気が流れ始め、私たちの気持ちも固まり、正式に彼女のご両親にご挨拶に行った時はさすがに緊張しました。既に親しくさせていただいていましたが、自分の体のことや、自分にとって彼女がどれだけ必要なのかをご両親に話し、やっとの思いで「ください…」と言いました。 ご両親より「病気のことも真ちゃん(そう呼ばれています)のことも、私たちより娘の方がよく知っている。その娘が決めたのだから、私たちが言うことは無いよ」と言ってもらい、涙をこらえきれなかったのを覚えています。

当時、偶然にも透析室の隣のベッドにいらしたのは宮崎県腎臓病患者連絡協議会の会長でした。透析中にはよく患者会についての話を聞いており「1度事務局に遊びに来てみらんね? 」との誘いに軽い気持ちで事務局を訪ねたのをきっかけに事務局員として仕事をさせてもらっていました。ですから私は迷わず会長に仲人をお願いし、結婚式を迎えました。式は透析室のスタッフには総出で祝っていただき、先生方からのメッセージもいただいて、本当に出会いに恵まれた幸せを感じました。


私があげられるならいつでも…

交際中から「私の腎臓があげられるならいつでもあげるよ」と言ってくれていた妻。結婚してからも、何かあるたびにそう言ってくれていました。しかし20年ほど前の生体間腎移植にはとても厳しい条件があり、そもそも夫婦は元々他人同士、適合するわけがないと思っていましたし、健康な妻の体にメスを入れることなど考えられないことでした。それでなくても結婚生活は年数を重ね、二人の子供にも恵まれ、透析患者である自分がこんなに普通の幸せを感じることができるなんて嘘みたいだとよく思っていましたので、それで十分だと感じていました。

そんな生活の中で「腎臓あげるよ…」と、言ってくれる妻に対して「しつこい! 」と声を荒げたこともありました。また二人の子供の親となった自分には子供達を守っていかなくてはいけない、という使命感もあり「将来もし子供達が腎臓を患ったら…」そう考えると「その腎臓は子供達のもしもの時にとっておいて! 」と返すのが常になっていました。

ただ、それでも提供の気持ちを伝え続けてくれる妻には、心から感謝していました。そして月日を重ねるごとに妻の想いに対して、なんてひどい言葉を返していたのだろうとようやく気がつき、それからは「気持ちだけで十分。気持ちはしっかりもらっているから大丈夫よ」と精一杯の感謝を込めて返せるようになりました。


先生方との出会い

透析生活も順調に経過し18年目を迎える頃、宮崎県腎協の事務局で事務局長をさせていただいていました。その時それから先の人生を一変させる巡り合いに遭遇することになります。

事務局の電話を取った私に腎協の先輩であり薬剤師でもある方から「名古屋の先生方が宮崎で最新の腎移植についての講演をやってみたいと仰っているのだけど、やってみない? 」と言われたのです。もちろん私は即答でお受けしました。その時は自分が移植を…という思いは全く無く、移植医療の情報がほとんどない宮崎で会員さんにとって最先端の先生方のお話が聞けるせっかくの機会を逃す手はないと思ったからです。

数日後、その先生方とのやり取りが始まり、その中で、先生方のお人柄に引き込まれていくことになります。 講演に関する細かな打ち合わせをメールで行うことになり、移植医療最先端を走る先生方にどのように対応すれば良いのか正直緊張の連続でしたが、先生方から返ってくるメールの文面や言葉の隅々に謙虚なお人柄が現れており「なんて素敵な先生方なんだ…」と、一度も面識が無いうちからすっかり信頼をおいていました。


衝撃の最新腎移植医療講演会

講演当日を迎え初めて先生方とお会いして挨拶を交わしましたが、この時は既に顔見知りのような対応をしていただき私も同じ感覚になっていました。

私は司会進行を担当し、二人の先生方に加えドナー(※臓器提供者)経験者、レシピエント(※移植を受ける人)経験者、移植者協議会の山本理事長と、そうそうたるメンバーによる講演会は始まりました。 まず衝撃だったのは先生方による講演の中で、夫婦間移植が主流になりつつあるという話しでした。「夫婦間? 夫婦は他人同士…。適合するの?? 」全くそのような情報が無かった私の頭の中は「? 」で一杯になったことを覚えています。

免疫抑制剤の目覚ましい進歩により血液型などの違いはほとんど問題なく移植ができ生着率も素晴らしく延びているというお話や、名古屋第二赤十字病院によるチーム医療のお話にはただただ驚くばかりでした。その後のレシピエント経験者の話では、健常者と見分けがつかないくらいお元気で活動的な姿に驚きました。ドナー経験者のお話では、ご主人にわが身を削って提供された想いや提供後の充実した生活の様子、お互いに健康になったことによる幸福感を聴くことができ、どのお話に大変な感動を覚えました。このドナー経験者の方との出会いも、私たち夫婦にとって大変大きなものとなりました。

この日講演を聴きにきていた妻は偶然にもこのドナー経験者の方の隣の席に座り、講演を聴いた後自分が提供したい想いを必死に伝えたという話しを後になって聞きました。

数年後この方が保管していたこの講演会の資料の片隅に、妻が書いた自分の名前と電話番号の走り書きを見せていただいた時にはさすがに胸に迫るものがありました。なんとか移植をしたいという想いを実現させるために、この方との繋がりを大事にしておこうとした妻の姿を思い浮かべると、申し訳ないような気持ちで一杯になりました。

こうしてこの日を境に結婚当初よりドナーとなる申し出をしてくれていた妻の想いは日々強くなっていくのがわかったのですが、私にとっては嬉しくも苦しいことでした。

妻の想いに私の気持ちも揺れ動き、何より名古屋第二赤十字病院の先生方や移植経験者の方々との出会いに私も少しずつ移植へと気持ちが傾きはじめたのです。

日々話し合いを重ね「もし妻になにかあったら…」「将来子供達が移植を必要としたら…」本当に色々な不安も浮かび上がりましたが、結局妻からの提供を受ける決心ができたのは、先生方への信頼感からであり「この病院この先生方なら、妻を安心してお任せできる」その思いが全てだったと思います。

透析を始めて20年、妻からの提供の申し出を拒み続けて17年目のことでした。

次回は移植に向けての検査開始についてです。

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横山真三

横山真三
26歳で透析導入となり途中腹膜透析(CAPD)も経験しました。CAPDもノントラブルで経過しましたが、腹膜を守るために8年で終了し再びHDへ。縁あって透析室の看護師さんと結婚して17年間、妻からは常に腎臓提供を申し出てくれていましたが、妻の体にメスを入れることなど考えられず、気持ちだけもらっていました。
そんなある日「この方たちなら妻を任せることができる! 」という心から信頼できる先生方との出会いに恵まれ「夫婦間生体腎移植」へ踏切ました。現在移植後4年を順調に経過しています。

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