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理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座【第15回】
〜透析と骨の健康〜
2015.9.28
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腎不全になると、高リン血症や甲状腺機能亢進症、ビタミンD活性不足などの骨に悪影響を及ぼす症状が併発的に起こります。 骨が弱った状態で転倒したり、ぶつけたりすると容易に骨折してしまうことが多くなります。骨折後は骨折部分周囲の筋力が低下したり筋委縮することが多く、後遺症として痛みや痺れなどの症状が残ることもあります。
そこで今回は「なぜ透析患者さんは骨が弱くなってしまうのか? 」について説明します。
骨が弱くなる原因
高リン血症
多くのリンは腎臓で排泄されますが、腎機能が低下するとリンの除去ができずに血液中に残ります。残ったリンは血液中のカルシウムと結合して血管壁に付着します。石灰化した成分が血管を狭め、血液の流れを悪くしてしまいます。
副甲状腺ホルモンの増加
血液中のリン濃度が高くなると、リンは多くのカルシウムと結合するので血液中のカルシウムが低下します。
この状態が続くと副甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、血液中のカルシウムを補うため骨に貯蔵されたカルシウムを使います。骨のカルシウムばかり放出されてしまうと、骨がスカスカになります。
ビタミンDの不足
腎臓にはビタミンDを活性化する働きもあり、またビタミンDは腸からカルシウムを吸収する働きをしています。腎不全になりビタミンDの活性化ができなくなると、腸からのカルシウム吸収ができなくなり、骨に貯蔵してあるカルシウムを吸収して血液中のカルシウムを補おうとします。
骨が弱くなると当然のことながら骨折しやすくなります。骨折しやすい箇所としては、①脊椎(特に腰椎が多い)圧迫骨折、②大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ:股関節の付け根)骨折、③手首の骨折が多く起こります。
骨折すると炎症症状を避けるために骨折箇所を動かさなかったり、過剰に安静にしてしまうことにより骨折周囲の筋力が低下することが多く、大腿骨骨折の場合は左右の脚の長さに差が現れ歩行に支障をきたすこともあります。
また一度骨折した箇所は再発リスクも高くなるので、転倒などには十分に注意しなくてはなりません。このようなことを避けるためには、適度な運動をして動作や歩行のレベルを安定させておく必要があります。
とはいえ、透析患者さんは時間的制約や血圧・服薬コントロールなどがあり運動するタイミングをつかめないという声を多く聞きます。運動するお薦めのタイミングは「透析前」です。透析患者さんは代謝の過程で産生された乳酸を和らげにくいため、アシドーシス(体液中の酸に対してアルカリが相対的に減少する現象で高カリウム血症を起こす)に陥りやすくなっています。また負荷の強い運動で筋肉を使うと、クレアチニンの数値が上昇します。運動した後に透析を行えば乳酸や老廃物は速やかに抜き取られるため、透析前の運動が推奨されます。
しかし、決して非透析日の運動が推奨できない訳ではありません。透析のない日にも、血圧の変動や諸症状の自己管理に十分に注意しながら適度な運動を行うことは大切です。
最後に運動強度について説明します。リハビリテーションを実施する場合は、心肺運動負荷試験(心電図、血圧、呼吸中の酸素、二酸化炭素の濃度を測定しながら運動を行う試験)により嫌気性代謝閾値(運動中の強さを増す時に血液中の乳酸が急激に増加し始める強度の値)を測定し、その人に合った運動強度を設定します。
他の方法としては、カルボーネン法があり、次の2つの公式に当てはめて運動強度の設定を行います。
①運動強度=(心拍数-安静時心拍数)÷(最大心拍数-安静時心拍数)×100
②目標心拍数=運動強度×(最大心拍数-安静時心拍数)+安静時心拍数
運動強度を①の式を用い、目標とする運動強度の心拍数は②の式を用いて算出してから、運動に臨みます。しかしご自身で運動を行う上で、算出に必要な最大心拍数を厳密に測定することは困難なため、実際に運動をする際は以下のことに留意して進めましょう。
運動する際の注意点
血圧・心拍数の変動
運動前の心拍数が120以上ある場合は、運動は中止しましょう。
運動すると血圧・心拍数が変動するため、運動前と比較して血圧が±20mmHg、あるいは 脈拍が+20回以上上昇した場合は、中止あるいは休憩をはさむようにしましょう。
自覚症状
動悸や息切れ、起立低血圧等の症状があった場合は運動は中止しましょう。いつもと異なる 症状がある場合は、速やかに医師に報告しましょう。
栄養状態・服薬状況
食事や水分、ウェイトコントロールが上手くいっていない時や、薬剤の影響(降圧剤やインシュ リンを服用した直後など)がある時は、運動は控えるようにしましょう。
「適度な運動」は必要ですが、当然この「適度」の基準は人によって異なります。既往歴(患者の過去の病歴と健康状態の記録)や合併症の有無、透析日・非透析日、服薬状況、季節や時間帯によって個人差があります。日々の変化に注意しながら、身体の状態に合わせて運動習慣を身につけましょう。
参考
- 舘野雄貴(2014)『五反田ガーデンクリニックリハビリテーションマニュアル』
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