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透析の友・本の紹介【4】
春木繁一著・『透析とともに生きる
人生を変えた腎不全 精神科医 仕事と家族を語る』
2014.8.12
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紹介する本:春木繁一著・『透析とともに生きる 腎不全からの再生 精神科医自らを語る』
先日、この本の著者である春木繁一先生が永眠されました。春木先生は透析患者であり、また精神科医として透析患者の心に寄り添う治療に取り組まれてきました。まさに透析患者の心理状態を身をもって知った方だったのだと思います。
今回紹介する本は、透析の友・本の紹介【2】で取り上げた『透析とともに生きる 腎不全からの再生 精神科医自らを語る』の続編です。前書では、春木先生ご自身の慢性腎臓病(CKD)保存期での尿毒症の体験や、透析を受け始めてからの不均衡症候群の凄まじさなどが語られていました。
続編では、透析装置はキール型からコルフ型、そしてホローファイバー型へと移行し、それらの新しい透析を受けながらの精神科医として、親として、両親の介護者としての生き方が描かれています。
週3回、しかも1回5〜6時間の人工透析を受けながら、春木先生は周囲の病院関係者の理解を得て、精神科医としての仕事を少しずつ増やしていきます。週に数回、病院での診察を入れたり、家庭裁判所での精神鑑定の仕事などをこなしていました。その際、自分が透析を受けていることを周囲に黙っていました。ごく一部の人だけが透析のことを知っていたそうです。
透析を受けながら仕事を増やす中、親の介護もしなくてはならなくなります。そのような苦労の積み重ねの中で、春木先生ご自身が結核を患ってしまいます。透析に加えて他の病気を患った時の苦しみの連鎖が克明に書き記されています。
ある時の透析で血圧が異常値にまで上昇し、鼻血が溢れるように流れて透析中止に陥ります。すぐに東京女子医科大学で処置を受け、しばらくすれば退院できると春木先生は考えますが、その後も発熱が続きます。透析が終わると震えが起こり、だるさ、筋肉痛、発汗、頭痛、関節痛が一気に襲ってきます。何かの感染症であろうと抗生物質を投与しますが、全く治る気配がありません。食欲も無くなってきてしまいます。
病院の食事では十分な栄養は摂れないだろうということで、一旦退院し松江に帰ることになります。その後、同じく医者をされている弟さんの診断で、どうも結核らしいと分かります。一時的にストレプトマイシンが効果を見せますが、副作用である耳鳴りが起こってしまいます。 透析患者は、普通の患者さんのように十分な薬を投与することができません。 春木先生は治療への焦りか、うつ症状に陥っていきます。夜は眠れなくなり、自ら向精神薬を処方します。
それでも初めての単著である『透析患者の心理と精神症状』(中外医学社)の執筆を続けました。しだいに体力を回復され、大学へのカムバック、車の運転や子供とのキャッチボールができるようになって、長い病気からの離脱を実感することとなります。
春木先生は、精神科医として自らを振り返り、うつの身体的原因は透析不足だと判断しました。鼻血での透析の中断に始まり、結核の感染、貧血状態と続き、長時間透析が受けられなくなりました。1回5〜6時間の長時間透析を受けられないことで、尿毒症性物質が血中のみならず脳脊髄にも溜まっていき、透析不足が6ヶ月続いたと記してあります。自らの経験に照らして、長時間透析を行うことでうつは防げる、薬での治療ではなく、まずは身体的な要因を治すために十分な透析を受けて、十分な栄養を摂ることが大事だと書き記してあります。
本書の後半では、透析患者としての父親の姿を描いています。透析患者として子育てが続けられるかの不安を抱きながら、3人のお子さんに寄り添い育てあげられました。ご自身が透析を受けていることで、子供たちの成長にどのような影響を与えるのかを考えたそうです。少年期から思春期にかけての子供たちが、父親の死という不安に圧倒されるのではないかと。いや、絶対に生きて、そんな不安に陥らせることがないようにしなくては、と心に決めたそうです。
本書は、透析患者として生きる中での仕事、家族、そして他の疾患との苦闘、子育てについての克明な記録です。私は、これは透析患者が生きていくためのロールモデルだと感じました。我々透析患者が同じような体験をした時、本書に書かれた内容は生きるための羅針盤となり、生きるための勇気にもなる筈です。
このような生きた記録を残され天国に旅立たれた春木先生に、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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