食生活研究室腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
日本初の栄養ドリンクで透析患者を支える
~ベータ食品の思い
【前編】患者の声に耳を傾け続けた「カルフェロシリーズ」
2020.5.11
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「水分や栄養バランスを気にかけるのが大変…」「年齢を重ねるうちに、透析後の疲労が辛くなってきた」…このような悩みを抱える透析患者さんや、サポートするご家族は少なくありません。
透析患者さんは日々の食事管理や、透析による栄養素の除去が要因で栄養不足に陥りやすいことに加えて 、栄養管理を意識しながら“バランスの良い栄養摂取”を続けるのは難しいのが現状です。
そんな透析患者さんの悩みを少しでも軽くしたいー。その一心で、日本で初めて透析患者さん向けにL-カルニチン配合の栄養補助ドリンクを開発した「ベータ食品」(本社・大阪府)の原年秀代表取締役を取材し、商品開発のきっかけをはじめ、透析患者さんや商品にかける思いなどについてお伺いしました。
農場開発から透析患者の健康に寄り添った事業へ
「ベータ食品」の設立は1994年2月、当初は大規模農場開発を中心に事業展開する会社でした。
原代表はベータ食品入社前、淡路島で農業指導員をされていたこともあり、入社後は農場開発事業に参画。その後、ベータ食品は調味料や保存料・着色料を一切使わず、指定農場で栽培した野菜のみを煮込んだ、自然の恵みシリーズ「野菜スープ」の販売をスタートしました。売り上げはなんと年間13億円にも上ったそうです。
野菜スープの販売に大成功したベータ食品が、これまで日本で誰も目を付けなかった透析患者さん向け栄養補助ドリンク開発をスタートさせたきっかけは、製薬会社から紹介された大阪市立大学の故・前川正信名誉教授の提案でした。
その提案とは、L-カルニチンを配合した食品(栄養補助ドリンク)の開発です。透析治療により、アミノ酸、特に“L-カルニチン”が体外に除去されてしまうことと、多くの透析患者さんが栄養不足に悩んでいることを知り、簡便にL-カルニチンが摂れる食品開発に乗り出したのです。
透析患者はアミノ酸と水溶性ビタミンが不足しやすい
透析によって栄養素が除去されるというのはどういうことなのでしょうか?
1990年代にダイアライザと呼ばれる透析器(人工膜)の性質が向上し、尿毒素や合併症を引き起こす要因の一つβ2-ミクログロブリンがより除去されるようになりました。しかし、ダイアライザの網目の大きさによって除去される物質が決まるため、分子量の小さいアミノ酸やビタミンB群なども透析で除去されてしまうようになったのです。
透析で除去されやすい栄養素は主に次の5つです。
L-カルニチン | アミノ酸由来の物質。長鎖脂肪酸をミトコンドリアに運搬し、燃焼させることでエネルギーを産生するほか、赤血球細胞膜の新陳代謝を維持し、赤血球寿命の延長に関係します。 |
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ビタミンB1 (チアミン) |
ブドウ糖のエネルギー代謝に携わる栄養素。不足すると神経痛や筋肉痛、関節痛、うっ血性心不全などを引き起こす原因になります。 |
ビタミンB2 (リボフラビン) |
糖質や蛋白質、脂質の代謝、エネルギーを産生する酸化還元酵素の補酵素。欠乏によって口内炎や口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、角膜炎の原因になります。 |
ビタミンB6 (ピリドキシン) |
アミノ酸代謝に欠かせない補酵素で、透析患者さんで最も欠乏症が現れやすいビタミン。不足すると脂質代謝に影響が出るほか、神経系障害や皮膚炎、貧血、リンパ球の減少を引き起こします。 |
葉酸 | 赤血球の生産や、核酸・蛋白質の生合成を促進します。細胞分裂や身体の成長に深く関わるため、特に妊婦・胎児にとって重要。カリウムやリン制限食のため摂取不足に陥りやすいのが特徴です。 |
上記の栄養素の中でも、特に透析による漏出が問題となっているのが、L-カルニチンです。研究によると、透析患者さんのL-カルニチン欠乏は透析期間に比例していることが分かっています※。
※ 臨牀透析 - 臨床医学出版/日本メディカルセンター vol.16 no.2 2000 『慢性血液透析患者におけるカルニチン』
血流流量200mL・透析液流量500mL・4時間透析においては、およそ7~10gのアミノ酸が漏出します。
筋肉内のアミノ酸プールには全体で100~200gのアミノ酸がありますが、血液中あるのは2g程度。ところが、透析中も体全体のたんぱく合成は続いているため、一回の透析で約7~10gのアミノ酸が抜けてしまうと、筋肉のアミノ酸プールからどんどんアミノ酸が抜けてしまうのです。日本人の1日当たりの蛋白質推奨摂取量は成人で0.8~0.9g/kgですが、透析患者さんの場合はもっと蛋白質を摂らなければなりません。
1回の透析で血中カルニチンの70~80%が除去されるため、多くの透析患者さんはL-カルニチンが不足しがちです。L-カルニチンが足りなくなると、透析中の血圧低下や足のつりといった症状が出やすくなります。加えて、赤血球寿命の短縮による貧血、エネルギー不足による筋肉・体力低下、さらには心疾患などを引き起こすリスクもあるのです。
L-カルニチンは肉や乳製品をはじめとする蛋白質に多く含まれています。しかし、蛋白質摂取量が制限されている透析患者さんにとって、日々十分なL-カルニチンを摂るのはなかなか難しいのが現状です。
日本初の透析者向けL-カルニチン配合栄養ドリンクが開発されるまで
透析患者さんのこういった悩みを改善すべく、ベータ食品は前川先生指導のもと、L‐カルニチンやビタミンB群、また貧血に陥りやすい透析患者さんのために鉄分を配合したドリンクの開発に取り掛かりました。透析食品では、日本で初となるL-カルニチンの配合です。
商品開発でとにかく意識したのが、「透析患者さんが手軽にかつ簡単に栄養補給できるもの」であること。L-カルニチンは特に牛肉に多く含まれているため、ブラジルの牛肉から抽出した「カルニッチ5」という原料を主原料に開発しましたが、味の調整に苦慮し、何度も何度も試作を重ねました。
ようやく完成した日本初の透析患者さん用ドリンクは、L-カルニチンの「カル」と、貯蔵鉄(鉄結合性蛋白質)を意味するフェリチンの「フェリ」を合わせ、『カルフェロ』と命名。1999年10月から販売を開始しました。
完成後は透析施設を回り、医師を中心にカルフェロをPR。少しずつ商品を認知してもらえるようになりましたが、「当初は認知してもらうのに時間がかかりました」と原代表。しかしその後、透析患者会組織『腎友会』を通じて、会員の方への紹介にも力を入れるようになり、商品は広く知られるようになりました。
お客様の要望に即した『カルフェロ』と『アルブミアップ』の開発
カルフェロの特徴は、1本でL-カルニチン300mg以上摂取できる手軽さです。もちろんL-カルニチン以外にも透析で漏出しやすい栄養成分が多数配合されているため、栄養補給や体力低下が気になる方に多く支持されています。
発売当初は1種類だったドリンクは、その後、水分量を少なくしたり、リンやカリウムの含有量をゼロにしたり、便秘に悩む方向けに食物繊維量を増やしたり…とお客様の要望や最新医学情報を収集して商品展開。
さらにカルフェロとは別に、しもかどクリニック院長下門清志先生の指導のもと、エネルギーの元となる必須アミノ酸・BCAAを豊富に配合したドリンクを開発しました。「いいものを患者さんに」との思いから、年配の方も摂取しやすいよう形状や味に配慮しつつ、溶けにくいBCAAを多く配合するために検討・試作を重ね、2年ほどかけて『アルブミアップ』を完成。その後は、リニューアルでBCAAを限界まで配合した『アルブミアップSP』も作り上げました。
現在は透析患者さん向けの栄養補助ドリンクとして、『カルフェロ50プラス』『カルフェロスーパー30プラス』『カルフェロマルチ元気』『アルブミアップSP』の計4商品を展開しています。
カルフェロ50プラス食が細い方、糖分が気になる方から人気。腸を整え、食事と摂取すると食後の糖吸収が緩やかになる食物繊維を2700mg(レタス1.2個分)配合。ほか、ビフィズス菌など善玉菌の栄養源となるオリゴ糖をはじめ、25種類もの栄養成分の摂取が可能です。非必須アミノ酸(アラニン・アルギニンなど)も配合。すっきりブドウ風味。50mL。 |
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カルフェロスーパー30プラスL-カルニチンをたっぷり500mg配合。さらに、吸収性の優れたコエンザイムQ10が20mg含まれており、エネルギー生産をしっかりサポートします。L-カルニチン/コエンザイムQ10いずれも、加齢とともに減少してしまうので、年齢を気にせず活発に活動したい方、透析の導入期間が長い方に特におすすめです。さわやかなオレンジ風味。30mL。 |
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カルフェロマルチ元気水分量はなんとわずか20mL。特に透析通院されてまだ年月が経たない方など、水分摂取量が気になる方にぴったりです。L-カルニチンに加え、筋肉量を増やすために欠かせない分岐鎖アミノ酸(BCAA)も200mg配合しているので、体を動かすエネルギーの源をしっかり摂りたい方にもおすすめ。ミックスフルーツ風味。20mL。 |
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アルブミアップSP筋肉合成に携わる分岐鎖アミノ酸・ロイシンをはじめ、必須アミノ酸のBCAAを贅沢に配合。透析治療の導入後、なかなか良質な蛋白質が摂れないとお悩みの方におすすめです。「アルブミアップ」よりもBCAA配合量を25%アップ。カリウムやリンを気にせず、必要な栄養成分を効率よく摂取できます。チェリー風味。50mL。 |
※これらの商品は透析の直前に飲むと摂取した栄養成分が透析で除去されてしまうため、透析後の摂取がおすすめです。
開発から20年、“本物”を作り上げた社長の思い
2013年、カルフェロは「モンドセレクション2013銀賞」を受賞。1999年に開発した商品が、世界的に認められる品質であることが証明されました。
カルフェロの販売スタートから20年以上経過し、原代表の思いとはー。
「商品の寿命はとても短いですよね。今の時代2~3年もすれば商品は消えてなくなってしまう中、20年続く商品を作れたというのは、まさに『本物』を作れた、と。透析をされている方たちに寄与できたことを嬉しく思います」。
商品開発に携わられた方々の思いはもちろん、現場の医療関係者や患者さんの悩みや気持ち、そして物語も商品には詰まっており、まるで“一冊の本”になったようなものだーと原代表は語ります。商品を通じて、人との出会いや新しい考え方、思いやり、いろんなものを共に成長させてもらったそうです。
カルフェロを通じて、いろいろな医師や透析患者さんに出会えたという原代表。そしてそれがきっかけで透析患者さんを雇用する縁につながったそうです。後編では、ベータ食品の透析患者さんの雇用や今後の事業展開について、宿野部所長との対談を交えてお伝えします。
ベータ食品のお問い合わせ先
- ベータ食品株式会社(https://www.beta-k.com)
- 〒531-0076 大阪市北区大淀中1丁目16番10号 高石ビル5階
- フリーダイヤル:0120-831-123
- メール:info@beta-k.com
- オンラインショップ:https://www.beta-k.com/html/newpage.html?code=16
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