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腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第11回】視覚障害者がラーメンや丼物を選ぶ理由
2025.6.16
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけるとうれしいです。
第11回はミーナさんの知り合いの話を基にした、視覚障害者の「食べづらさ」がもたらす健康リスクについてです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ)
糖尿病性腎症でも、目の悪い人がラーメンを選んでしまう事情
今回は、目が悪い人にとって食べやすいものと、腎臓病との関連についてお話しします。
私の友人の明彦さん(仮名)と和幸さん(仮名)はともに40代、2型糖尿病からの中途視覚障害で弱視です。残存視力はほとんどなく、外出時は杖を持ち、文字の読み書きもあまりできません。糖尿病性腎症の方もだいぶ進行しているようでした。
今から10年ほど前、そんな2人と一緒に食事に行った時のことです。
2人とも「僕はいつもこれなんだ」と言ってラーメンを注文しました。
「いやいやいや、腎臓の機能が低下しているのに、“いつも”ラーメンを食べてるの? 大丈夫?」と、当時まだ腎臓病になる前の私から見ても、ちょっと心配になりました。
ラーメンは塩分が多く、腎臓病患者さんにとってはあまりたくさん食べない方が良いとされる食べ物の一つですよね。それなのに、彼らはどうしてラーメンを選ぶのでしょう?
実は、この2人のように成人してから目が悪くなった人は、人前での食事を嫌がる人がたくさんいます。綺麗に食べる自信がなく、食べこぼしや粗相をしてしまっても自分で気づけず、片付けることができなくて恥ずかしい、というのが主な理由です。そのため、外で食事をする場合はたいていラーメン・カレー・丼物など、お皿が一つで済み、食べるのが楽なものを選びがちです。
だから、「僕はいつもこれ」という選択には、ラーメンが食べたいという気持ちだけではなく、食べやすくて人目が気にならないという点も大きく影響していると思います。
もちろん、たまになら大きな問題にはなりませんが、頻繁に食べたり、家での食事もこうしたものばかりになると塩分の摂りすぎで高血圧やむくみがでてきたり、透析をしている場合は除水量が増えて、日々の透析の負担になってしまいます。
それから数年が経ち、食べやすいからという理由で家でも外でもラーメンやカレーを食べていた明彦さんは腎症が進行してしまい、4年ほど前に透析導入となりました。本人に様子を聞いてみると、やはり除水量が多くて透析が大変だと言っています。
せめて水分の少ないチャーハンや焼きそばにしたらどうかと伝えたところ、透析での体重の増加が少しは抑えられるようになったと言っていました。
一方の和幸さんは、まだ透析は導入していませんが、クレアチニン値は3mg/dL台で、塩分の多い食生活は控えなければなりません。家では誰かに見られるわけではないので、綺麗に食べられなくてもいいのでは? ということで、最近はご飯におかずというスタイルの、栄養成分が調整しやすい食事を摂るようになったそうです。
目が悪い人にとって食べやすいもの
①お皿が一つで済むもの
ラーメン、カレー、丼物、パスタ、チャーハン、焼きそばなど
目が悪い人は、食べるのが楽という理由でこれらのメニューを選びがちですが、しっかり味がつけられているため塩分過多になりやすく、ラーメンやカレーなどは水分も多く含むので、腎臓病がある場合は食べる量や頻度に気をつけたいです。
②手づかみで食べられるもの
おにぎり、サンドイッチ、肉まん、菓子パンなど
炭水化物が主な原材料となっているため、糖尿病の方は血糖値との兼ね合いで食べる量の調節が必要となると思います。私もその辺の事情をよく知らず、明彦さんに「パンやおにぎりの方が水分量が少なくて良いのでは?」と提案したところ、「血糖値が上がるので困る」と言われました。
ただ生理的空腹を満たすだけの食事~毎日丼物ばかり食べている澄夫さん~
続いて、目が悪くなり、食べることに不自由を感じて小食になってしまった高齢男性のエピソードです。
透析患者さんは水分や塩分、リン、カリウムの制限など日々の食事にさまざまな制約がありますが、逆に十分な栄養が摂れないと、低栄養になり感染症や他の病気にかかるリスクが高まります。
澄夫さん(仮名)は80代の強度弱視の男性で、健常者の妻と2人暮らしです。平日は毎日、私の母がヘルパーとして働いているデイサービスに通い、レクリエーションに参加し、介助を受けながら入浴と昼食を摂ります。
ある日の昼食時、母が澄夫さんの食事介助につきました。視覚障害者の取り扱いは娘の私で慣れている母ですが、澄夫さんから「おかずをすべてお茶碗の上にのせて丼物のようにして欲しい」と言われてびっくりしたそうです。おかずの他に、デザートのゼリーもあることを説明すると、「ゼリーもご飯の上にのせて欲しい」と言われ、さらに驚いたようです。
希望通り(それでもおかずと味が混ざらないように気を付けながら)、ゼリーをそっと白ご飯の上にのせた母。どうしてこんな食べ方を希望するのか澄夫さんに聞いてみたところ、中途視覚障害者にありがちな理由が返ってきました。
「お皿一つで済む方が、食器を探したり箸やスプーンを落とすことが少なく、食べやすいから。」
家での食事も同様に、すべてのおかずをご飯にのせて食べるスタイルだということも教えてくれました。
話を聞いてみると、澄夫さんが食事を食べこぼすたび、神経質な性格の妻から「汚い、あなたのせいで掃除が大変」などと毎日小言を言われ、食べる意欲が薄れて小食になってしまったそうです。
当時の澄夫さんにとっての食事は、おいしく楽しく味わって食べるものではなく、ただ生理的な空腹を満たすだけの行為でしかなかったのでしょう。最低限の量しか食べず、デイサービスで出てくる給食の他は、家族が出してくれるものをこぼさないよう気をつけながら口に入れるだけで、食事の内容や栄養までは気にしていないようでした。
そんな澄夫さんが、風邪をこじらせて肺炎になり入院することになりました。高齢で免疫力や体力が衰えているなか、低栄養も一因となったのかもしれません。
澄夫さんは、入院中に夫婦で栄養指導を受けたり、看護師さんから食べやすい食器や食事形態の工夫についてアドバイスを受けたそうです。
退院後の澄夫さんは、食べこぼさない工夫としてお盆や、深めの食器、おかずの色が映える色合いのお皿を使うなど、家族にも協力してもらいながら色々と試してみたようです。その中で自分が食べやすい食事形態にすることにより、以前のように楽しくおいしく食事ができるようになりました。
食事にストレスを感じていませんか
食べやすいからという理由で塩分の多いラーメンやカレーを食べ続け、糖尿病性腎症が進行してしまった明彦さん。ただの作業となっていた食事を見直し、食べる楽しみを取り戻した澄夫さん。今回紹介したエピソードでは、家族や周囲の協力やアドバイスが食生活改善の転機になっています。
病気や障害があると、食事の用意はもとより、食べることにも困難を抱える人は少なくありません。また、制限食では食べたいものが自由に食べられないというストレスも加わりますが、「食事はおいしく楽しく」というのも大切なポイントです。
日々の食事に不自由やストレスを感じているという方は、その理由、改善案や代替案について考えてみましょう。身近な人や医療者に相談することも手段の一つです。潤いのある食生活は、人生の満足度(QOL)を上げてくれることでしょう。
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