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腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第2回】視覚障害者が陥りやすい過食
2022.10.3
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第2回はミーナさんの知り合いの話や聞いた話を基にした、視覚障害と過食に関するエピソードです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ:s.yuri)
60代半ばにして完全失明してしまった70代男性、
修一さん
大好きな甘いものを食べることが唯一の楽しみに
修一さん(仮名)は70代の男性です。20代で網膜色素変性症を発症し徐々に目が悪くなっていきましたが、定年退職まで会社勤めを続けることができました。
退職後は晴眼の奥さんと悠々自適な生活を楽しむつもりが、60代半ばにして完全失明してしまいました。
テレビも映画も観られない、一人で外出もできない、本も読めない、かつての同僚や友達にも気軽に会えないし、デイサービスに行ってみても、目が見えないので楽しめるレクリエーションは限られておもしろくない…。
修一さんの唯一の楽しみといえば、大好きな甘いものをつまみながら、ラジオの野球中継などを聞くことくらい。外出しないため1年で10kgも太ってしまいました。
失明から数年後、修一さんは地方自治体の健康診断で血糖値の高値と尿糖を指摘され、精密検査を受けたところ糖尿病を発症していることがわかりました。
大好きな甘いものは控えなければいけませんが、修一さんにとってお菓子をつまみながら、ラジオを聞くのが今の唯一の楽しみ。甘いものを制限されれば間違いなくストレスがたまってしまうことでしょう…。奥さんもどうしたものかと頭を抱えたそうです。
中途障害で生じる喪失感は「食べること」以外で埋める準備を
食べることが大好きな視覚障害者は多くいます。色々な食べ物をバランス良く摂るべきだとわかっていながらも、好物ばかり食べてしまう偏食傾向は、老若男女問わず、先天性の人も中途失明者も一定の割合でいるのです。
修一さんの場合は、大袋のこしあん1kgにスプーンをつっこんで一日中なめるほどの甘党です。これでは糖尿病になってもおかしくはありませんね。
もちろん、このようなものをちょこちょこ買ってきてしまう奥さんも奥さんですが、食べること以外にも楽しみを見つけられるような環境を作ることが重要だったのではないかと思います。
視覚障害や腎臓病に限らず、ある程度の年齢で障害を負うことは、相応の喪失感を伴います。今までできていたことができなくなったり、それまで付き合っていた仲間と対等な関係でなくなってしまったりすることは、よくあることです。
それをどのように穴埋めしていくか。視覚障害者は食べることで満たそうとする人がかなり多くいます。しかし、じんラボをご覧になっている皆さんは既に腎臓に問題を抱えている方が大半でしょうから、好きなものの偏食や大食いなどでストレスを穴埋めすることはできませんね。
現在、眼の病気を診断されている方で、目が悪くなってきている方は、「食べること」以外のストレス緩和方法をあらかじめ考えておきましょう。
40歳で全盲に、それでも食生活を見直さなかった
輝彦さん
栄養指導を受けたものの、揚げ物の食べ過ぎで腎臓の機能が悪化
輝彦さん(仮名)は50代の男性です。目が悪くなる前から食べることが大好きで、しかも大食いだったので小学6年生にして体重100kgを超す巨漢な少年でした。母親は息子が可愛くて仕方がない様子で、何でも好きなものを食べさせ続けていたら、高校生にして2型糖尿病を発症してしまいました。
しかし、2型糖尿病は初期には自覚症状は出てこないことが多いです。輝彦さんは教育入院をしたようですが、本人にも自覚症状がなく、大人になっても食生活は一向に改善しませんでした。
そんな輝彦さんも、30代半ばを過ぎた頃から目に異常が現れてきました。糖尿病網膜症を発症したのです。ここにきてやっと食生活の改善をしようと思ったものの、時すでに遅し。様々な治療を受けたようですが、40歳で全盲になりました。少しは食生活を見直す気にはなったようですが、目が見えなくなってからでは自炊は難しく、調理が簡単な加工食品ばかりに手が伸びてしまいます。
失明から数年、今度は腎臓の機能の悪化を指摘され、かかりつけの病院で栄養指導を受けることになりました。栄養士さんからは、減塩・低蛋白食を勧められ、エネルギーを脂質で補うよう言われたそうです。それを聞いた輝彦さんは、脂っこいものなら何でも良かろうと、毎日のようにとんかつやら唐揚げやらをたくさん食べ、腎臓を悪化させてしまいました。「あの病院の栄養士は嘘つきだ」そう私に話していたのが印象的でした。
輝彦さんと栄養士ともに思い込みと想像力の欠如が招いた問題
まず、輝彦さんの自己流の極端な解釈はよくないですね。常識的に考えれば、いくら脂質でエネルギーを摂るよう言われても、腎臓病患者に毎日とんかつや唐揚げを食べるよう指導する栄養士などいる訳がありません。
しかし、輝彦さんは全盲で自炊ができない上に80代のお母さんと2人暮らし、高齢のお母さんが毎食作るにも負担も大きく大変です。
私は輝彦さんにどんな栄養指導を受けたのか聞いてみました。すると、「基本的なことを一通り、後は『お母さんにやってもらってください』と言われた」そうです。
確かに、輝彦さんが食品交換表を見ながら肉や魚を適当な大きさに切るなどの作業はもちろん、そもそも自分で食事の支度をするのは難しいうことは栄養士さんもすぐにわかったと思います。しかし、高齢のお母さんに毎日、減塩低蛋白食を作らせる負担に関しては考えが及んでいたのでしょうか…。
お母さんは認知症もなく、幸い体もある程度は健康とのことですが、年相応の物忘れや体調不良はあることでしょう。食事の準備がままならないようなこともあったはずです。
輝彦さんはお母さん思いで、毎食をお母さんに準備させることに気兼ねしていた節があったようで、近所のスーパーに一人で行き総菜コーナーで揚げ物を買って食べていたそうです。
もちろん輝彦さんの極端な解釈はもちろん大きな問題ですが、栄養士さんも減塩の仕出し弁当を紹介したり、輝彦さんが自分でできそうな電子レンジなどを使った簡単な調理方法を教えるなど、相手の状況や環境に関心を向け、もう少し想像力を働かせた総合的な栄養指導を行う必要があったのかなと思います。
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