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【第10話】糖尿病以外の理由で目と腎臓が悪くなった人の話①~ストレスから「病気の連鎖」に~
2025.9.8
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目と腎臓が同時に悪くなる病気というと、糖尿病を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、糖尿病以外の理由で視覚と腎臓の機能を同時に損なうケースも少なくありません。私が通う病院で透析をしている患者さんの実例を交えながら、一つの病気がきっかけで別の病気を引き起こす「病気の連鎖」について、3回にわたって考えてみたいと思います。
芋づる式に別の病気にかかった健一郎さん
70代の全盲の透析患者である健一郎さん(仮名)は、糖尿病ではありません。10代の頃に、夜盲から始まり徐々に視力が失われる難病「網膜色素変性症」と診断されました。この病気は有効な治療法がなく、進行を食い止めることが難しいとされています。
夜暗くなると目が見えにくいということで眼科に行き、この病気が見つかった健一郎さんですが、当初は昼間の視力はまだ1.0以上あり、病気と診断されてもまったく実感がわかなかったそうです。高校、大学と順調に卒業し、民間企業に就職することもできました。しかし、就職してからは仕事で目を酷使したり、さまざまなストレスが相まって少しずつ病気が進行していきました。そして就職から20年で視力低下により仕事が続けられなくなり、退職を余儀なくされました。
退職後は家に引きこもりがちになり、酒量も徐々に増えてしまいました。視力低下で運動不足がちになるのに加え、飲酒と塩辛いおつまみなどにより体重が増加し、高血圧を発症します。
しかし、会社を辞めていたため定期的な健康診断を受ける機会もなく、心配した家族が市の健康診断に連れて行ったところ、高血圧と動脈硬化、それに腎臓の機能が低下していることがわかりました。近所の内科医院に通院することになりましたが、視力を失ったストレスを穴埋めするための飲酒や過食は止まらず、数年後にはついに体調を崩してしまいました。
血液検査の結果、腎臓の機能がだいぶ衰えているため、透析が必要と診断されました。高血圧や動脈硬化の放置による腎硬化症と、腎臓の機能の低下による尿毒症が現れていたそうです。
目の病気によるストレスが生活習慣の乱れを招き、それが新たな病気を引き起こすという「病気の連鎖」が起きてしまったのです。
「病気の連鎖」は誰にでも起こり得る
この話は、健一郎さんだけの特別なケースというわけではないように思えます。高齢者や、がん、糖尿病・自己免疫疾患などをもつ方の中には、複数の病気や症状を抱えている方が少なくありません。
また、もともとは一つの病気が原因でも、薬の副作用や合併症、乱れた生活習慣などで他の病状が生じるケースは多くあります。
そう考えると、今ある病気の治療はもちろん、新しい病気を招かない心掛けも大切です。特に、食事や運動、仕事、余暇の過ごし方などのライフスタイルを時々見直してみることが重要なのではないでしょうか。
健一郎さんも、ストレスを飲酒や過食以外の方法で穴埋めできれば、腎臓が悪くならずに済んだかもしれません。
次回は、透析を先延ばしにして腎性網膜症になった方のお話です。
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