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重複障害と透析

【第1回】目が悪い透析患者が震災にあったら~避難を嫌がった譲二さんの話~

2024.2.5

文:ミーナ

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災害避難イメージ

連載にあたって

こんにちは、ミーナです。「研究員のはなし(体験談)」にて3つ目の連載を始めることとなりました。よろしくお願いします。
今回のテーマは「重複障害と透析」です。昨今、透析患者の高齢化、透析導入要因の最多を占める糖尿病などもあり、単に腎臓だけが悪いという方よりも、複数の病気や障害を抱えて透析をしている人が多くなっています。複数の病気や障害を持つ人の暮らしについて、さまざまな角度から皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

来年はいわゆる「2025年問題」、団塊の世代が後期高齢者となる時代に突入します。「複数の障害を持つ重複障害者」は、「複数の病気を抱える高齢者」と重なる部分があります。
今は腎臓以外に特に悪いところはないという方でも、年を重ねた将来に別の病気を発症したり、透析や腎臓病の合併症、原疾患がある場合はその疾患による他の合併症を抱えるなど、どんな方でも重複障害のような状態になる可能性があると言えます。
当面は、目が悪い透析患者の話が中心となりますが、視覚+腎臓の話だけでなくさまざまな問題を幅広く取り上げ、皆さんと一緒に広く社会全体の問題として考えていけたらと思っています。


2024年1月の能登半島地震で被災された方々に心からお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧を心よりお祈りいたします。直接被災されていなくても、報道を見て心を痛めている方、強い不安を感じている方も多いかと思います。
断水等で人工透析が困難な状況も報じられていましたが、腎臓病患者に限らず障害者は総じて災害弱者と言えます。
「一人で避難できない」「災害に関する情報を受け取りにくい」「いつもの薬が手に入りにくい」「災害救助が優先され、いつもの治療が受けられない」など、障害の内容や程度によって困ることはさまざまですが、今回は、私の友人で全盲の透析患者の譲二さんに聞いた東日本大震災での避難体験をもとに、障害者や高齢者の災害対策について考えてみたいと思います。

譲二さんに聞いた3.11の話

譲二さん(仮名)は70代の全盲の透析患者で、原疾患は糖尿病です。家族構成は妻の真理子さん(仮名)と娘夫婦、それに当時3歳になる孫との5人暮らしでした。
そんな譲二さんが透析を始めたのは2010年の1月、東日本大震災の1年前です。あの未曽有の大災害は、透析導入から1年ほど経ち、透析生活にようやく慣れてきたばかりの頃でした。

2011年3月11日は金曜日、午前中の透析を終えて帰宅、遅めの昼食を終えて真理子さんとテレビを見ていた(聞いていた)その時でした。午後2時46分、部屋が急にガタガタと揺れだし、目の見えない譲二さんには何が起こっているのか分からず驚いたと言います。次にテレビが一斉に地震の報道に切り替わり、大きな地震が起きたと理解したそうです。

ほどなくして、全国の太平洋沿岸に津波警報が発令され、譲二さんの住んでいる町は海沿いだったので、津波警報や避難指示が出ました。防災無線が鳴り響き、救急車やパトカーのサイレンがひっきりなし、このまま自宅にいれば津波が来てしまう! 真理子さんは、目の見えない夫の手を引いて保育園にいる孫を迎えに行き、そのまま避難所に指定されている小学校まで行こうとしたのですが、当の譲二さんは避難所には行きたくないと言い出しました。

「俺のことなんか構わないでいいから、一人で逃げてくれ…。」

そう言われても、真理子さんだって、障害があり一人で避難できない夫を残して自分だけ避難することなどできません。津波の到達予想時刻が次々と発表され、自宅近辺まで津波がやって来るまで、あまり時間がなくなってきていました。避難所に行くのを嫌がる譲二さんを真理子さんは何とか説得し、どうにか家を出た二人。そのまま孫を迎えに行き、避難所の小学校へ向かいました。小学校に着くと、体育館の一区画が譲二さんたち家族のスペースとしてあてがわれました。

真理子さんは水や食べ物をもらいに行ったり、夫の病気のことを説明しに行ったりと大忙しですが、目が見えず一人で動くこともできなければ、周囲の状況も分かりにくい譲二さんは不安と心配と手持ち無沙汰で気持ちが落ち着かなかったと言います。それでも数時間後には、連絡を受けた娘夫婦も職場から駆けつけ、家族5人が無傷で揃ったことに安堵したそうです。

津波は自宅近くまで到達したものの、幸い自宅は流されずに済み、数日で自宅に戻れた譲二さん。それでも断水があったり、東京電力の計画停電などの影響により透析の曜日や時間帯の変更などはしばらく続いたそうです。

以上が、譲二さんの3.11避難体験のお話です。

避難所に行くのを嫌がる理由は?

譲二さんが避難所に行くのを嫌がる場面がありましたが、高齢者や障害者の多くは通常の避難所での集団生活が難しく、避難所に行くのを嫌がる人がたくさんいます。
一般の避難所として指定されている小学校や公民館は、バリアフリーではないことが多く、車いすのまま入れるのか、トイレは使えるのかという物理的環境への心配があります。視覚や聴覚に障害がある場合は、周りの状況が分かりにくいことからくる不安やストレスが多くなります。
また、日常生活に多くの介助や医療ケアが必要な人の場合、避難所ではスペースや介助者の確保が難しく、知的や精神の障害がある場合は状況の変化がうまく呑み込めないこともあります。
そうした問題を抱えての避難所生活は肉体的・精神的に大変で、「自分(または障害のある家族)のせいで周りの人に迷惑をかけるのではないか」と思ったり、避難所に行きたくないと思ってしまう気持ちも分かります。
ですが、迅速な避難を要する災害がこの先も起こりうることは事実です。
平常時から避難の段取りについて家族や周囲の人と話し合い、避難所に行くのが嫌であれば、その理由を洗い出してみましょう。避難を手伝ってくれる人や、避難所の代わりになる施設を探したりして、事前に調べて不安を減らしておくことが大切だと思います。


誰も取り残さない災害対策~インクルーシブ防災~

インクルーシブ防災イメージ

インクルーシブ防災。昨今よく聞かれるようになった災害に関する理念です。障害の有無、国籍、宗教や民族・人種などを超えて、すべての命は尊く、どのような人でも防災に必要な情報を得られ、安全に避難できる権利を求める声が高まっています。

自治体によっては、災害時に支援が必要な人を任意で登録する制度があったり、地域ごとのコミュニティ(町会・自治会など)で、高齢者や障害のある人の災害対策や避難方法について話し合いが持たれる例も見られます。
日本は高齢者の人口が多く、また若い人でもいつ病気や障害を負うことになるか分かりません。そうした意味では、インクルーシブ防災に基づいた取り組みはとても素晴らしいことではないでしょうか。病気や障害があっても災害に関する情報を十分に得られ、対策をして、安全に避難できるということは、安心安全な生活へとつながると思えます。

今回は、3.11の避難体験をもとに高齢者や障害者の災害対策についてお話ししました。皆さんもぜひ一度時間をとって、有事にはどう行動するのか、自分に必要な支援はどのようなもので、どうすれば良いのか、改めて考えて周囲の人とも話し合ってみてください。

なお、能登半島地震では、ライフラインの復旧を待ちながら二次避難を続ける重度障害の方や医療依存度の高い方々(透析患者もここに含まれます)がもとの日常に戻れるには、まだ時間がかかりそうです。
長期の避難生活がもたらす災害関連死も辛い課題です。障害者や高齢者はよりリスクが高まるため、日々の災害対策が一層大切だと感じます。
また、障害者や高齢者にとっては再就職や新しい土地での暮らしもハードルが多く、経済面でも長い戦いになるでしょう。
被災地・被災者の方にはこの先も息の長い支援が必要です。自分の防災対策と合わせて、募金の他、ボランティアや観光などが必要な段階になったら自分にどんな支援ができるか考えることも、復興に繋がると思います。


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ミーナ

ミーナ
1990年9月生まれです。生まれつき、先天性緑内障という目の病を持っており、幼い頃から弱視で現在はほとんど見えていません。腎臓は2017年に急な体調不良から緊急透析導入となり、今に至ります。原因は不明です。視覚と腎臓の重複障害ですが、日々楽しく生活しています。
趣味は読書で、4時間の透析中に1〜3冊くらいは読んでしまうかなりヘビーな読書家です。

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