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理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座【第7回】
手根管症候群のリハビリテーション
2013.12.9
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手根管症候群
透析にはさまざまな合併症が生じますが、「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」もその中の一つとして挙げられます。
手根管症候群は手を過度な負担や浮腫(むくみ)・ガングリオン(ゼリー状の物質の詰まった腫瘤)による圧迫、腱鞘炎の影響なども原因となりますが、透析患者様の手根管症候群は、手根管部(下図参照)の横手根靭帯(おうしゅこんじんたい)や腱鞘滑膜(けんしょうかつまく)にアミロイドが沈着し、腱鞘滑膜炎が起こり、手根管内容物の増加をきたします。
手根管をトンネルに例えたとして、トンネルの口を広げることは出来ないまま、中に入っていた物質が膨張したら、圧力が生じてしまいます。
手根管内にアミロイドが溜まってしまうと、正中神経(指を動かしたり、感覚をつかさどる神経)が圧迫されて同神経の支配領域である第1〜4指(親指・人さし指・中指・薬指)の知覚感覚異常、しびれ、疼痛、母子球筋の麻痺や萎縮、筋力低下が出現します。
手根管症候群になると、示指(人差し指)と中指を中心として母指(親指)と環指(薬指)にシビレや痛みが生じます。症状は夜間や温度差のある時に強くなることが多くなります。
また、手根管症候群の特徴として、薬指(環指)の小指側と小指には症状が出ません。これは正中神経の支配領域ではない為、影響がないからです。
進行すると、シビレや痛みの増悪だけでなく、母指球筋の萎縮も生じて指の対立運動が出来にくくなってしまいます。
頸椎症も似たような症状が生じますが、手根管症候群は上記した特有の症状が出ます。手のシビレが発生したからといって手根管症候群と断定出来ませんので、整形外科を受診されて下さい。
手根管症候群はその成因から病状は進行性となっています。正中神経を圧迫している物質を取り除かない限り、症状は増悪の一途を辿ります。
母指対立筋(ぼしたいりつきん)
主な働きとしては、母指(親指)を対立させる働きがあり、物を掴んだり、字を書くことが困難になります。
手指の痛みは透析中や夜間に増悪する報告が多いですが、慢性化した場合は日中も痛みが生じる場合があります。
母子球筋の麻痺は母指対立運動障害となり、OKサインがしづらくなる徴候があります。
また、長期化すると手関節可動域制限(手首が動かしづらくなる)や変形、弾発指(バネ指)等の二次的合併症が起きます。
弾発指(バネ指)とは
指を動かすには、浅指屈筋や深指屈筋という筋肉が末梢の腱へと力を伝えます。この筋肉が働くことにより、手首や指を動かすことが出来ます。
筋肉〜骨の間には腱が存在し、これが双方をつなげる役割を果たしています。ちなみに骨と骨をつなぐのが靭帯です。
この腱が浮き上がらないように押さえつけている腱鞘というものがあります。これは手を過度に使ったり、負荷がかかると炎症を起こしてしまいます。これを腱鞘炎と呼び、さらに進行するとバネ指(腱が指を動かす力がなくなって、バネのように伸びきってしまった状態)になってしまいます。
手根管症候群の診断
以下、手根管症候群を調べる診断方法を紹介します。
①ティネル(Tinel)徴候
下図のように手関節部を叩く→手のひらから手指にかけて放散痛があるか否かを検査
②ファーレン(Phalen)テスト
下図のような姿勢をとり、手の甲を押す→症状の増悪があるか否かを検査
手根管症候群の治療
手根管症候群は、正中神経を圧迫している物質を取り除かない限り、完全に治癒することはありません。
軽度〜中度の症状の場合においては、手関節を中間位に固定する装具を用いたり、副腎皮質ステロイド薬の局注を行います。
委縮・腫脹・麻痺が存在する場合においては、外科的手術として正中神経を圧迫している屈筋支帯を切除して、圧迫しないようにします。また、神経への除圧を鏡視下手術で行うこともあります。
手根管症候群に対する理学療法には、交代浴で組織の伸展性、知覚神経への刺激を高めた後に神経や腱のグライディングエクササイズを行うことで、手根管内の滑走性改善を図ることできます。
母指対立筋の萎縮がみられる方は、対立筋の運動療法が必要となります。
手根管症候群のリハビリテーション
1.下写真のような姿勢をとり、①のように手首を自分の方へ引きます。次に②のようにゆっくりと手首を垂らします。
2.下写真のようにタオルやヒモを肩から垂らし、矢印↓の方向へ引きます。このときのポイントは、肩や肘の力を抜き、手首の力でゆっくりと引きます。
3.筋力低下や萎縮、軽度の麻痺(動かしにくい)等の症状には、下写真のようにセラバンドを用いての手関節運動も効果的です。
4.下写真①のようにゴムで指を覆い、指を写真②のように開いたり・つぼめたりします。
これらのリハビリプログラムの目的は手根管症候群の治癒ではなく、症状の進行防止・痛みの軽減を図ることです。症状が増悪する場合には中止してください。また、現状より症状が悪化する際は、医師の診断を受けてください。いずにしろ早期に医師の診断を受けることをお薦めします。
参考文献・参照資料
- 国分正一、鳥巣岳彦(2008)『標準整形外科学 改訂第10版』医学書院
- 篠田俊雄、峰島三千男(2011)『透析のすべて-原理・技術・臨床-』秀潤社
- 鈴木郁功(監修)、松木里華(2011)『手根管症候群、これでシビレ、痛みが消えた!』日正出版
- 柳澤 健(編集)(2010)『理学療法学 ゴールド・マスター・テキスト2 運動療法学』メジカルビュー社
- 上月正博(編著)(2012)『腎臓リハビリテーション』医歯薬出版株式会社
参考サイト
- Morphopedics [Physical Therapy Management of Carpal Tunnel Syndrome](2013/10 アクセス)
- E-Hand.com The Electronic Textbook of Hand Surgery(2013/11 0アクセス)
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