透析と視覚障害腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第8回・番外編】おまけ~視覚障害による障害年金の認定基準変更と併合認定について
2022.5.16
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皆さんこんにちは。少しご無沙汰しております。
2018年7月1日から身体障害者手帳認定基準(視覚)の改正案が施行されたことを受けて、今年2022年1月から障害年金に関して視覚障害の認定基準も改正され受給しやすくなりました。
「透析と視覚障害」の連載は、前回の「【第7回・最終回】まとめ~ さまざまな福祉サービスと当事者としての意識」で終了予定でしたが、今回はおまけの番外編として、視覚障害での障害年金の改正ポイントと認定基準、そして一人で2つ以上の障害を持っている人のための認定方法である「併合認定」についてお話しします。
透析患者さんは原則として障害年金2級と認定されますが、現在2級の方が視覚障害になった場合、1級で受給できる場合があります。また腎臓病の保存期で障害年金の受給要件に該当しない方も、視覚障害のみで受給できる可能性や、過去に却下された方でも対象となる場合があります。
なお、障害年金の基本事項は「生活を支える 障害年金」でご確認ください。
視力障害の認定基準
(1)改正後の視力障害の認定基準
等級 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 視力の良い方の眼の視力が0.03以下のもの |
視力の良い方の眼の視力が0.04かつ他眼の視力が手動弁以下のもの | |
2級 | 視力の良い方の眼の視力が0.07以下のもの |
視力の良い方の眼の視力が0.08かつ他眼の視力が手動弁以下のもの | |
3級 | 視力の良い方の眼の視力が0.1以下のもの |
障害手当金 | 視力の良い方の眼の視力が0.6以下のもの |
一眼の視力が0.1以下のもの |
(2)改正のポイント
従来、視力障害の認定には「両眼の視力の和」が採用されていました。しかし視力に左右差がある弱視者が実際に何かを見るときは、悪い方の目は使わず、良い方の目だけを使って見ているという現状を踏まえて、「両目の視力の和」から「良い方の目の視力」に認定基準が変更となりました。
例えば右目が0.1、左目が0.01という方の場合、「両眼の視力の和」は0.11となり、従来の認定基準では3級にも該当しませんでした。
ちなみに0.01という視力は、色や物陰などは多少わかっても物の形は判別できないので、文字を読んだり障害物をうまく避けて歩いたりすることは困難で、ほとんど見えていないに等しい状態です。
また、例えば右目0.1、左目0(ゼロ)の人の場合、従来の認定基準では両目の視力を足して0.1になるので3級に認定されていました。
このような不公平は関連団体の間でもかなり問題視されてきました。そこで、今回の改正では、悪い方の目の視力がいくつであっても、実際には使っていないのだから、足し算をするという発想をやめることになったのです。
また障害手当金の認定基準も緩和されました。
視力が0.6程度あれば日常生活での支障はさほど大きくないと思いますが、車の運転免許の更新ができなくなるので、仕事や生活に支障が出る方もいることでしょう。そのような場合に失業保険などとともに手当金を受給できるようになるのは、心強いのではないでしょうか。
障害手当金とは、厚生年金の方が障害年金の障害等級ではなくても、一定の障害状態になった場合に支払われる一時金です。近視や老眼などで矯正して0.7以上の視力が得られる場合はいくら裸眼視力が悪くても申請は通りませんので、ご注意ください。障害年金じゃなくて自動車免許の更新をしましょう(笑)。
視野障害の認定基準
視野とは、片眼で1点(指標)を注視した時に見える範囲です。従来の、視野角度による「ゴールドマン型視野計」に基づく認定基準に加えて、視認点数による「自動視野計」に基づく認定基準も創設されました。
(1)改正後の視野障害の認定基準
自動視野計に基づく認定基準 | |
---|---|
等級 | 障害の状態 |
1級 | 両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が20点以下のもの |
2級 | 両眼開放視認点数が70点以下かつ両眼中心視野視認点数が40点以下のもの |
3級 | 両眼開放視認点数が70点以下のもの |
障害手当金 | 両眼開放視認点数が100点以下のもの |
両眼中心視野視認点数が40点以下のもの |
ゴールドマン型視野計(手動視野計)による基準 | |
---|---|
等級 | 障害の状態 |
1級 | 両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつⅠ/2視標による両眼中心視野角度が28度以下のもの |
2級 | 両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下かつⅠ/2視標による両眼中心視野角度が56度以下のもの |
求心性視野狭窄又は輪状暗点があるものについて、Ⅰ/2視標で両眼の視野がそれぞれ5度以内におさまるもの(※改正前の基準の範囲を改正後もカバーできるよう存置した基準) | |
3級 | 両眼のⅠ/4視標による周辺視野角度の和がそれぞれ80度以下のもの |
障害手当金 | Ⅰ/2視標による両眼中心視野角度が56度以下のもの |
両眼による視野が2分の1以上欠損したもの |
ゴールドマン視野の指標(光)は面積と輝度(明るさ)によって分類され、いくつかの指標を用いて検査します。Ⅰ/4(「いちのよん」と読みます)視標のⅠとは(4分の1平方ミリメートル)の面積、4とは「4段階の明るさのうち最も明るいもの」、同じくⅠ/2(「いちのに」と読みます)視標の2とは「4段階の明るさのうち2番目のもの」という意味です。
Ⅰ/4の指標の方が面積が大きく明るさもあるので見やすい指標です。
(2)改正のポイント
まず、従来の視野障害の認定はかなり厳しく、実際には視野障害があるのに認定基準が厳しいせいで「なかったこと」にされた人は多くいました。それでは一つずつどう改正されたかを見ていきましょう。
1)自動視野計での認定基準を新設
従来の視野障害の認定基準のゴールドマン型視野計は検査技師さんが手動でやってくれるので、視力が悪い人でもコミュニケーションを取りながら、自分のペースでゆっくりやることができます。
しかし、そのために一人当たりの検査時間が長くなってしまい、また検査技師さんの技量による検査結果にムラがあり、大まかな結果しか得られないということもあります。
一方、自動視野計の場合は完全にコンピューター制御ですので、検査結果にムラが出たりすることも少ないですし、検査時間も手動よりも短くて済みます。
小さな眼科医院などでは、人件費などの関係で自動視野計のみというところもあり、最近は自動視野計での視野検査がスタンダードになってきているということを踏まえて新設されることになりました。
2)視野の形の限定を撤廃
視野障害認定において一番厳しくかつ不公平だった部分は、視野の欠け方、つまり残存している視野の形に条件があったことです。この規定のせいで、視野障害があるにもかかわらず、残っている視野の形が認定基準にそぐわず視野障害そのものを「なかったこと」にされて障害年金がもらえなかった人がたくさんいました。
具体的には求心性視野狭窄といって、視界の中心に向かって視野が狭くなっていく形と、輪状暗点といって視界の中にドーナッツ状に見えない部分が出現してくる形の視野障害しか認定してもらえなかったのです。
参考:視野障害の種類
これらの視野障害は網膜色素変性症や一部の緑内障くらいにしか当てはまらず、透析患者さんで罹患者が多そうな糖尿病網膜症の人は、視野の形がこのような欠け方をしていないと「視野障害はないもの」とされてしまっていたのです。以前、糖尿病網膜症の友人に「ミーナさんは緑内障だから、視野の欠け方が規定通りでうらやましい」などと言われたことがあります。
いやいや、うらやましいと言われても、私の残存視野など針の孔から除く程度のものしかないので、とても複雑な気持ちになりました。このような不公平も関連団体の間では長らく問題視されてきました。
今回の改正では、検査数値だけで視野の形は限定しないということが決まって本当に良かったと思います。
障害年金の併合(加重)認定について
最後に重複障害の人の障害年金における併合認定についてお話して終わりたいと思います。
併合認定というのは一人で2つ以上の障害を持っている場合、それぞれの障害を評価し、単独の障害等級よりも上位の等級の認定を行うことです。
これは腎臓病と視覚障害という組み合わせ以外にも、障害年金の認定基準に定められている範囲のあらゆる障害が対象となります。
視覚障害や腎臓病に限らず、ご自分や周囲の人の状態が併合認定に当てはまるかどうか気になる人は、厚生労働省や日本年金機構のウェブサイトに併合認定に関する参考表がありますので、そちらをご参照ください。
以下、ざっくりとですが併合認定を受けられる要件の例を記載します。
- ①障害年金の申請の時点ですでに2つ以上の障害を持っている場合
- 例:
ダウン症により生まれつき知的障害と心臓病を持っている
交通事故で脊髄損傷となり上肢と下肢の障害が同時に併発した - ②もともと障害年金2級以下の軽度の障害を持っている人が、後年に別の軽度障害を併発した場合
- 例:
軽度発達障害の人が交通事故で片足の指を失った
軽度知的障害の人が頭を打ち、網膜剥離を起こして軽い視力障害が出た - ③もともと治療中の障害に加えて、別の病気にかかったり、労災や交通事故で新たに別の障害を負った場合
- 例:
糖尿病網膜症で弱視だった人が腎不全になり透析を受けることになった
統合失調症で治療中の人が心臓弁膜症になり人工弁を装着した
→私は糖尿病ではないのですが、併合認定はこのパターンでした。
併合認定の注意点としては、とにかく病気になれば何でも認定してもらえるというわけではありません。体や精神の機能が認定表に定められた程度にまで落ちてしまった人が対象となるほか、同一部位に複数の障害がある場合は明示されている等級を越えられない制限があります。
最後に
おまけといいながら、ついついいつものペースでかなりの文量となってしまいました。
今回は視覚障害による障害年金の視力障害の認定改正基準と、最後に少しだけ併合(加重)認定にも触れてみました。透析をしていると健常者に比べて他の病気にかかりやすいので、併合認定の部分は皆さんに情報共有した方が良いかと思って取り上げました。
それでは、今回がこの連載の本当に最後になります。ご覧いただき、ありがとうございました。
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