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飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談

【第3回】シャントトラブル1. 透析中に生じるトラブル

2014.8.5

文:春口洋昭

2400

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透析中にはいろいろな事が起きます。
シャントに関して言うと、脱血不良、静脈圧上昇、止血時間延長、再循環、穿刺ミスなどがあるでしょう。これらは何らかの理由があって生じます。これらを「透析中に生じるトラブル」とします。
また透析では問題なくても患者さん自身に生じるトラブルもあります。例えば手指や上肢の浮腫、腫脹(しゅちょう:炎症等が原因で、体の組織や器官の一部が腫れ上がること)、瘤形成、感染などです。これらは「患者さんに生じるトラブル」です。
今回は「透析中に生じるトラブル」について解説します。


1. 脱血不良とは?

透析に必要な血流が脱血できないことです。脱血量は患者さんによって異なるでしょう。脱血量は1分間に150mL/minから400 mL/min程度まで幅広いですが、多くの患者さんは200〜250 mL/minの血流を脱血していると思います。200 mL/minの血流を脱血するためには、少なくともシャント静脈に350 mL/min程度の血流が流れている必要があります(図1)。

図1

狭窄(きょうさく:血管等の内部が狭くすぼまり、血液が通過しにくくなる状態)が進行してシャントの血流が低下すると、十分な脱血ができなくなります。これを脱血不良と言いますが、スタッフは回路に組み込まれているピローのふくらみなどから脱血不良の有無を判断します。
脱血不良が生じても患者さんは痛くもかゆくもありませんので(まれに、血管が引っ張られて、痛みを感じることもあります)、患者さん自身は気づきません。スタッフが一時的に血流量を下げたり、針先の位置を移動させることで対処します。
針先の位置によっても脱血不良が生じる場合は、穿刺部や穿刺方法、針を固定する深さなどを調節することで対処が可能です。穿刺方法を変更しても脱血不良が続く場合は、高度な狭窄があってシャント血流そのものが低下しています。
シャントの血流量は超音波検査(図2)や透析中にHD02(図3)を用いて測定します。また、狭窄は超音波検査や血管造影で診断します。超音波検査は血流量と狭窄の両方をリアルタイムで測定することができ、非常に有用な方法になります。

図2

図3


2. 脱血不良の治療法

さまざまな対処を行っても脱血不良が続く場合は何らかの治療を行います。治療法には、狭窄部を広げる経皮的シャント拡張術(PTA:Percutaneous Transluminal Angioplastyといいます)と、シャント再建術、血管形成術などがあります。まずはPTAを行うことが主流となっていますが、3か月に2回以上の頻回にPTAを要する場合は外科治療を考慮いたします。治療法の詳細に関しては連載第5回目で解説いたします。


3. 十分な血流量があっても脱血不良を生じる場合

先ほど200mL/minの脱血ではシャント血流量が350mL/min必要と解説しましたが、これは途中に分岐がない場合です。シャント血流量が500mL/minあっても分岐した後で脱血している場合、例えば2本の静脈に同じ血流が流れていれば脱血している静脈の血流量は250mL/minとなるため脱血不良が生じます。超音波検査ではシャント全体の血流量を測定するため、このシャントは血流量500mL/minの良好なシャントと判断されます。しかし実際は脱血不良が生じることになります。
このような場合の対処として3つの方法があります。1つは分岐する前の静脈に穿刺部を移動させることです(図4)。肘で穿刺している場合、前腕の静脈が深くて穿刺部位を移動させることができないこともあります。また吻合部すぐ中枢で2分岐している場合は、分岐部の手前を穿刺することができません。その時は以下の2つのいずれかの方法を選択します。

図4

その一つは脱血していない側の静脈を結紮(けっさつ:しばること)して、脱血部の血流量を増加させることです(図5)。これはその静脈を結紮しても透析に支障がない場合に限り行います。もう片方の静脈で返血している場合は結紮ができません。
そのような場合は先ほど解説したPTAが有効です。PTAを行って血管を拡張させることにより、全体のシャント血流量が800mL/minになれば穿刺部の血流量も400mL/minとなり穿刺部を変更しなくても脱血不良は生じません(図6)。

図5

図6


4. 十分な血流がなくても脱血不良にならない場合

例えば、図7のように狭窄部よりも吻合部に近い部位で脱血している場合は、シャント血流量が少なくても脱血不良を生じません。この部位はいわゆるダムのようなものです。ダムそのものは流れが遅くても上流からどんどん水が流入してくるため、いくらでも水をとることができます。シャントも同様で、たとえシャント血流量が100mL/min程度でも200mL/minを脱血することが可能になります。
ただしこのような部位はシャント静脈の圧が高く、止血に時間がかかることが多いです。触ると押し返すような弾力があります。このような状態になると突然閉塞する危険があるため、たとえ脱血が十分であっても治療が必要になることが多くなります。

図7


5. シャント血流量と穿刺部の関係

このように同じシャント血流量でも穿刺部によって症状が異なります。図8にまとめてみました。実際自分のシャントはどの部位を穿刺しているのか? それによって今後生じる症状は何なのか? すぐ治療が必要なのか? その場合の治療法は? などは脱血の状態と穿刺部によって異なりますので、ある程度自分自身のシャントを把握しておくことが重要です。

図8


6. 静脈圧上昇

透析中に静脈圧が上昇してアラームが鳴ることが時々あるかもしれません。アラームは設定を変更できるため、アラームが鳴らなくても静脈圧が低いというわけではありません。静脈圧は返血している針の中枢側(肩側)に狭窄が生じると高くなります。また血管が蛇行していたり、瘤部を穿刺している場合や狭窄部に針先が入ってしまう場合は、針先が壁に当たり静脈圧が上昇することがあります(図9)。留置する針の長さや方向、角度を変えても静脈圧上昇が続く場合は中枢側に狭窄があるものと思って間違いはありません。

図9

静脈圧は狭窄だけでなく、針のサイズ(細い針だと静脈圧が高くなる)、ドリップチャンバーの位置、脱血量、患者さんの体位によって変化します。よって静脈圧の絶対値だけでは狭窄の程度はわかりません。ただし多くの患者さんではこれらの条件は一定しているため、静脈圧が上昇=狭窄の進行と考えて差し支えありません。
脱血不良と異なり静脈圧がある程度上昇しても透析には支障が生じません。また多くの場合(後述する再循環は除く)、透析効率にも影響は与えません。ただ先述したように、次第に上昇する静脈圧は狭窄の進行を意味しています。放置しておくと突然閉塞する危険があるため、静脈圧が上昇してくるようであれば超音波検査や血管造影を行ってチェックします。
超音波検査などで高度な狭窄がある場合はPTAを行います。また本幹が閉塞していて側副静脈に流入している場合は、グラフトを用いたバイパス術が必要になることもあります。あまり関心がないかもしれませんが患者さんは現在の静脈圧がどれぐらいなのか、また上昇傾向にあるのかに気を配っておくことが必要と思います。


7. 再循環

返血した血液の一部を脱血部から取ってしまうことを再循環と言います。通常は返血した血液はそのまま心臓に帰っていきますが、何らかの原因でその一部が脱血側で吸引されることがあります。
例えば、図10のように返血側に高度の狭窄があると、血液の行き場がなくなりいったん手指の方に血液が戻ります。そこで脱血していると再循環を呈してしまうのです。またシャント血流量が少ない場合(図11)や脱血部と返血部が近い場合(図12)は、再循環を呈しやすくなります。本来脱血部からは身体を巡ってきた尿毒素の多い血流が脱血されるべきですが、その一部に尿毒素の割合が低い血液が混じると透析効率が低下します。再循環率が15%を超えると透析効率が低下している可能性が高いです。

図10

図11

図12

再循環の症状として、なんとなく身体がだるかったり、不整脈が出たり、食欲不振があることが挙げられますが、それは相当再循環率が高くなってきたときに現れる症状であり多くの患者さんは無症状です。
また脱血不良が生じないためスタッフも再循環に気づかないことが多いです。できれば透析効率が低下して症状が出る前に、再循環を見つけることが重要になります。再循環は通常の透析ではモニタリングされませんので、定期的もしくは疑ったときに測定することになります。
現在では日機装の透析器械に付属しているBV計で再循環を容易に測定することも可能ですが、この透析器がない場合は採血をしたり特殊な機器を取り付けたりする必要があり、それを疑わない限り測定することは少ないです。よっていかに再循環を疑うかが大事になります。簡単に再循環の有無をみる方法があります。それは脱血部と返血部の間の静脈を指で押さえるのです。そうすると返血部のシャントフローが脱血部から吸引されないため脱血不良を生じます。
再循環があればシャント静脈の構造や狭窄部を見つけ出す作業が必要ですが、これは超音波検査や血管造影で確認します。その上で狭窄部の治療を行うのか、もしくは穿刺部の変更だけで対処可能なのかを判断します。


8. 穿刺ミス

患者さんにとって最も重要な事は穿刺になるでしょう。穿刺ミスがあると十分な透析が行えないばかりではなく、血腫や狭窄、場合によっては血栓を形成してシャント機能が低下することもあります。最悪の場合はシャントが閉塞します。透析スタッフも穿刺ミスがないように万全の注意を払っていますが、どうしても穿刺困難な血管もあります。
穿刺ミスしやすい静脈は、①狭窄がある ②深い位置を走行している ③蛇行している ④血管壁(または皮下組織)が硬い ⑤血流量が少ない、などの特徴があります。これらが合併すると穿刺ミスの危険が高まります。また穿刺スタッフとの相性もあり、あるスタッフは問題なく穿刺できているのに、別のスタッフはミスしやすいということもあります。私は多くの患者さんのシャントの診察を行っていて「どうしてこの静脈で穿刺ミスがあるのだろう?」と思うことがあります。しかし、逆に「よくこんな細い静脈に穿刺できるな!」と感心することも少なくありません。
穿刺ミスがあると透析スタッフも患者さんも原因は穿刺者にあると考えがちですが、血管に原因があることが多いです。ですから穿刺ミスが続く場合は超音波検査を行って、その原因を特定することが大切になります。

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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