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自分のシャントをよく知ろう!
飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談

【第7回】みなさまからの疑問・質問にお答えします
Part 2

2015.3.12

回答:春口洋昭

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前回の「みなさまからの疑問・質問にお答えします Part 1」に引き続き第2弾。みなさまからいただきましたシャントに関する疑問・質問と春口先生の回答をご紹介します。シャントを見ていてふと感じる素朴な疑問から、実際にお困りのシャントのトラブルまで、春口先生が詳しく解説します。
なるほど! と納得すること間違いありません! 今回は6つの質問にお答えいただきました。

質問1【穿刺の方法について】
ニックネーム:森野熊さん

シャントに穿刺する場所で返血部と脱血部の距離が離れている方がいいと聞きましたが、理由は何でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

効率の良い透析を行うには、身体を通った尿毒素の濃度が高い血液を脱血する必要があります。返血した低い濃度の尿毒素の血液を再び脱血すると透析効率が低下します。これを「再循環」と呼び、返血した血液の15%以上が脱血部に回ると明らかな透析効率低下が表れます。
脱血の針先と返血の針先が近いと再循環を起こしやすくなるため、ある程度(5cm以上)距離を離して穿刺することが推奨されています。再循環を起こすかどうかは、シャントの血流量や返血部の中枢の狭窄の有無にもかかわってきます。すなわちシャントの勢いが弱いと、返血した血液が脱血部に逆流しやすくなり、再循環を起こします。また返血部の中枢に狭窄があると、スムースに中枢方向に血液が戻らず、脱血部に逆流する可能性がありますがこれも再循環の原因となります。
穿刺部位が限られていて、どうしても穿刺部位が近くなる場合は、せめて脱血と返血の針を逆方向にすることが望まれます。そうすることによって、穿刺部が近くても針先の距離が保たれるからです。


質問2【静脈が発達している人】
ニックネーム:ソボクな疑問さん

シャントを手術する以前に、見た目にも静脈がものすごく発達しており、血管が太く浮き出ているような人がいますが、そうした人でもシャントの手術は必要でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

ご指摘のように静脈が発達していて、そのまま穿刺しても透析が行えそうな患者さんはいます。透析の針を穿刺することは可能ですがそのように太い静脈でも50mL/min程度しか血流は流れていません。透析で必要な血流量(200mL/min)を脱血するためには300〜400mL/min以上の血流が流れていることが必要ですので、いくら太い静脈でも透析は行えません。多くの血流を静脈に流すためには動脈の力が必要で、そのためにシャントを作製するのです。
ただし大腿静脈や内頸静脈などの深くて血液が集まってくる静脈では条件によっては200mL/min以上の脱血が可能です。そのためにシャントが閉塞した患者さんには、深部の太い静脈にカテーテルを挿入して透析を行うのです。


質問3【手や指先の血流について】
ニックネーム:くまばちさん

透析歴10年で今さらの質問で恐縮です。動脈と静脈を繋いで、手や指先などへ血が流れなくなってしまうことはないでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャントは動脈と静脈をつなぐものですので、ご指摘のようにつないだ部位よりも末梢の手指の血流が低下することがあります。これを「スチール症候群」と呼んでいます。本来手指に向かうべき動脈血流がシャントに盗られてしまうので「スチール=盗む」ということばが使われています。スチール症候群の症状は、最も軽いものから第1度:手指の冷感や軽いしびれ、第2度:透析中に生じる手指の痛み、第3度:非透析日にも生じる手指の痛み、第4度:手指の壊死になります。早期に発見して適切な対応をとることで重症化することは防げます。
シャントを作っている患者さんは多かれ少なかれそのような病態になっているはずですが、実際にスチール症候群を発症する患者さんはそれほど多くありません。それはシャントに盗られる血流分の動脈血流が増加して、手指の血流を保つようになっているからです。
それではどのような患者さんでスチール症候群を発症するのでしょうか。まずは元々動脈硬化が強く、手指の血流が低下している患者さんです。このような患者さんでは末梢の血管抵抗が高いため、より流れやすいシャントに多くの血液が流入します。もう一つはシャント血流が多い場合です。末梢の血流を保つようにいくら動脈血流を増やそうとしても限度があります。シャントが発達しすぎて過剰なシャント血流になると、動脈硬化がそれほどなくてもスチール症候群を起こす可能性があります。
後者の患者さんではシャント血流量を低下させる手術が有効になりますが、前者の患者さんで高度のスチール症候群が起こった場合シャントを閉鎖せざるを得なくなることがあります。 スチール症候群はシャント作製24時間以内に現れることがあります。もともと末梢循環が不良の方に、太い動・静脈でシャントを作製すると起こりやすいです。この場合は強い痛みや冷感を伴うことがあり、早急な治療(シャント閉鎖など)が必要になります。一方でシャントを作製して10年以上してから現れるスチール症候群もあります。透析歴が長くなるにつれて動脈硬化が進行したために現れるもので、進行は緩徐(かんじょ:ゆっくり)です。


質問4【肘より上のシャントについて】
ニックネーム:ひよこマメさん

シャントを作る場合、大抵は手首にシャントを作りますが、私の場合は9才の時にシャントを作りました。その時、手首辺りの血管が細いと言われ肘上の近くにシャントを作りました。おかげで再手術もせずに10年以上もっています。そこで疑問なのですが、よく肘から上にはシャントは作れないと言われるのですがそれはなぜなのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

まずご質問に対する回答の前に、なぜ最初に肘に作らず前腕(肘から手首までの部分)に作るかの理由をご説明します。
第1にシャントは作製部位の中枢側(肩側)の血管しか穿刺できないということです。脱血と返血の2か所に穿刺する必要がありますが、前腕で作製すれば多くの穿刺部位が確保できるからです。穿刺することによって、血管が傷つきますので、なるべく広い範囲に穿刺ができるのが良いのです。肘に作製すると穿刺部位が上腕部(肩と肘の間)に限られてしまいます。
第2に前腕でシャントを作製すれば、シャントが閉塞したときの次の手術が容易だという理由が挙げられます。シャントが閉塞した場合はその場所よりも中枢側でシャントを再建しますが、最初から肘に作製すると次に再建する部位がなくなってしまいます。ご質問の方もこの部位をお知りになりたいと思いますので、これに関しては後で述べます。特に日本のように腎移植症例が少ない国では、長期間にわたり透析療法を受けることになりシャントを長く使用する可能性が高くなります。片方の上肢のシャントでなるべく長く透析を行うためには、前腕にシャントを作る方が良いのです。

第3に肘でシャントを作製すると血流が多くなりすぎる可能性があるということです。前腕と比べると肘の動・静脈は太いため、シャントの血流が多く流れます。もちろん多いので問題なく透析が行えるのですが、時間がたつとさらに血流が多くなり(過剰血流)心臓の負担が増えます。またその分手指の血流が少なくなるスチール症候群(詳しくは【第4回】『シャントトラブル2. 患者さんに生じるトラブル』をご覧ください)をきたす可能性があります。それらを防ぐ意味でも前腕のシャントが望ましいのです。

さて、今回の質問はすでに肘にシャントが作製されている場合に、それよりも中枢にはシャントが作れるのか? ということですが特殊な方法を使えば作れます。ただ普通の内シャントは作製できません。これは動脈と静脈の解剖学的な位置関係の問題がからんできます。

上腕部で穿刺可能な静脈は、唯一橈側皮静脈(とうそくひじょうみゃく)という、上腕の少し親指側を走行している静脈です。もう一つ小指側を走行する尺側皮静脈(しゃくそくひじょうみゃく:こちらの方が太い)もありますが、とても深い位置を走行しているためそのままでは穿刺ができません。

さて吻合する動脈ですが、上腕では尺側(小指側)を走行しています。そのため同じく尺側を走行している尺側皮静脈と直接吻合することができます。ただし、前述したように尺側皮静脈は深いためそのままでは穿刺ができないのです。そこで、尺側皮静脈を浅く穿刺しやすい位置に移動します。具体的には皮膚を長く切開して静脈を剥離し、皮下トンネル内に静脈を移動して動脈と吻合するといった比較的大きな手術が必要になります。

橈側皮静脈と上腕動脈が直接吻合できればよいのですが、先述のように両者は遠くそのまま吻合することはできません。そのため、5㎝ぐらいの人工血管で動脈と静脈をバイパスすることは可能です。この場合、人工血管を使いますが、穿刺は自分の静脈で可能になります。

肘から上には作れないというのは、このような解剖学的な理由のためです。


質問5【血管の太さについて】
ニックネーム:オルカさん

最初に作ったシャントが17年間トラブル無しできたのですが、シャントの傷がある部分が、ぽっこり膨らんでいたり、血管が太くなっています。よい血管だと言われますが、これは太くならないようにできるのですか?
また、最近穿刺部分が透析中でなくても触ると痛みを感じるのですが、なぜでしょうか?(10年ぐらいまで痛みはありませんでした)

春口洋昭先生からの回答

17年間もシャントトラブル無しで過ごすことができたので、とてもよいシャントなのだと思います。シャントの傷は動脈と静脈を吻合した場所になるのですが、10年以上たつとある程度膨らんできます。シャントはよく川にたとえられますが、吻合部はまさしく滝壺の場所になります。

吻合部では勢いの強い動脈の血流が直接静脈の壁に当たります。静脈の壁は薄いため、そこに強い圧力が加わると膨れやすくなるのです。また吻合部の2〜5㎝の間は狭窄をきたしやすい場所になりますが、そのため膨れた血管にさらに圧力が加わって瘤が大きくなります。いったん太くなった血管は手術をしない限り小さくはなりませんが、スタッフからそのようなことが言われていないのであれば、いまのところ手術の必要のない膨らみなのでしょう。あまり気にしなくてもよいと思います。

穿刺部位の痛みですがいろいろな原因があると思います。穿刺部は赤くなっていませんか? 赤く少し硬いようであれば、血管壁に血栓ができているかもしれません。血栓が炎症を起こすと触っただけで痛みを生じます。また穿刺部が少し膨らんでくると、その周囲の神経が引っ張られるような形になり痛みが出ることもあります。また穿刺する場所が集中していると皮下組織が硬くなり、軽度の炎症が起こり痛みを感じることもあるでしょう。

同じ場所に週3回、10年以上穿刺すれば皮膚も血管も相当傷みます。穿刺部を変更して少し休ませることで痛みが緩和するかもしれません。


質問6【穿刺時に固さを感じることについて】
ニックネーム:K*さん

普段、在宅血液透析で自己穿刺をしています。先日、シャントのエコー検査では問題なしと言われたのですが、穿刺時に固いところに当たりそれ以上、針が進まないということがありました。固くて針が進まないというのはなぜなのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

自己穿刺をしていると硬いところは自分の感覚でなんとなくわかりますね。 針が進まないというのは、内筒(穿刺針は2重構造になっていて、血管に刺した後、金属で出来ている内筒は抜き、やわらかい素材で出来ている外筒は留置する)が血管内に入りにくいとうことと、内筒は入っても外筒が進まないという2つの場合がありますので、その2つにわけて説明いたします。

1.そもそも針が血管内に入りにくい場合
最も考えられるのは血管壁の石灰化ですが、石灰化した血管は触ると石のように硬いのでわかります。この場合は少しずらすと石灰化の内部分があるため、穿刺ができることが多いです。その他の原因としては血管壁にある血栓で、穿刺すると抵抗があり硬く感じます。この場合は血栓を通過して初めて血管内腔に届くので、抵抗があっても少し深くまで針をすすめなくてはなりません。また頻回に穿刺していると血管の前壁の皮下組織が硬くなり、針が進まないといったこともあります。

2.外筒が硬い部分に当たって進まない場合
針の外筒が血管内に入って逆血が見られても、ある程度以上は押し込むことができない場合があります。血管内の硬くなった静脈弁や石灰化した組織が原因かもしれません。また血管に隔壁があって外筒が隔壁に当たって進まない場合も多いです。血管には問題がなくても針の角度がつきすぎていると、外筒が後壁に当たりやすく進みません。蛇行した血管でも外筒が壁に当たりやすくなります。また針が血管の真ん中を貫いていない場合、横の壁に外筒が当たって進みにくくなります。

今回のご質問の方はエコーでは問題ないとのことでした。この場合、実際には存在する病変(たとえば静脈弁や隔壁など)をエコーで描出することができなかったことも考えられます。本当に血管に問題がない場合は穿刺の角度や方向、中心をとらえているか、蛇行した壁に当たっていないかなど、穿刺方法をもう一度チェックしてもらってください。

次回は「みなさまからの疑問・質問にお答えします Part 3」です。お楽しみに!

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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